ヴィクトリアの獣人と魔法

橋結

第1話

13年前、私は公園で、丸まっている少年を見かけた。その子は、痩せ細っていて、もう死んじゃうんじゃないかなっていう程に弱ってて。何とかしなきゃって思って、私はその子を家に連れ帰った。

ご飯をあげて、毎日楽しく生活するうちに、その子には、特異な性質があるということがわかった。

その子は、獣人だった。

聞けば、彼は私の3個年上で、名前はルイ。騎士学校に通いたい、そう言っていた。

私のお祖父さんが、騎士学校の学長だよ?

そう教えたところ、ルイは嬉しそうに飛び上がり、通いたい!と、懇願してきた。


「ヴィクトリア、一生に帰りましょ?」

私は、親友のシアンに声を掛けられ、大きく頷いた。

私は、ヴィクトリア=ガルシア。セシル魔導学校に通う高等部の1年。セシル魔導学校は、私達の暮らす国、セルリアンの中では、トップの学校だ。そんな学校に通う私は、毎日魔法について学んでいる。


「ねぇ、聞いて!」

シアンは興奮気味に話す。

「なになに、どうしたの?」

少し食い気味に聞いてあげると、シアンはぴょんぴょん跳ねながらこちらを見た。シアンの綺麗な金髪が、揺れ動いている。

「あのね、私、告白されたの!」

「…え?」

あまりにも突拍子のない話で、私は少し驚いた。

「…シアン、彼氏、出来たの?」

聞くと、シアンは照れながら、顔を横に振った。

「まだだよ。告白されただけだからね」

シアンの顔は、みるみるうちに、赤くなる。

「いいなぁ、シアン。恋人出来るのー?」

私が、肩を落としていると、シアンは、目を丸めていた。

「…何?」

「いや、ヴィクにはさ、居候くんがいるじゃん」

「…え、ルイのこと?」

「そうそう」

ルイと、付き合うの?私は一瞬、考えてみた。

確かに、ルイは、顔だって整ってるし、騎士二段の称号を持ってるし……。でも、ルイは獣人だ。いっちばんダメなやつ。

「ルイは、姉弟みたいなもんだよ?」

私の答えに、シアンはつまらない、とでも言うように、首を横に振った。

「あんなイケメン、なかなか居ないし、第一に、一緒に暮らしてて、ラブロマンスが生まれないわけがない」

いや、獣人だし。私は、頭の中でシアンをどつく。ラブロマンスもなにも、ルイは獣人だし。

つまらなくなって、私は箒にまたがった。

「え、嘘だ。ヴィク、空飛ぶの?」

「シアンも、乗る?」

シアンに促すと、予想通り、シアンは顔を顰めた。

「空なんで、見上げるものだよ」

「それなら、私は行くね」

地面を思い切り蹴って、私は空に飛び込む。体に触れる少し冷たい風が、とても心地よい。


何となく低空飛行していると、見覚えのある背中が見えた。

「ルイっ!」

ルイの背中を叩くと、ルイは大きく肩を落としている震わせた。

「ヴィ、ヴィクトリアか…学校、終わったの?」

穏やかなルイの瞳に私が映る。美しいブルーの瞳。

「うん、終わったよ。ルイも、これから帰るの?」

私の質問に答えるように、ルイは、大きく頷いた。

「じゃあさ、後ろに乗りなよ」

私が、促すように箒を揺らす。ルイは少し迷っているように見えた。

「乗っても、いいの?」

「いいに決まってんじゃん」

「でも、僕重いし…」

「大丈夫だよ。早く乗らないと、置いてくよ?」

「わぁぁぁ、乗る、乗るよ!」

ルイは、箒にまたがり、柄を思い切り握る。

「ルイは、魔法使えないんだから、そんなところにつかまっても落ちちゃうよ?」

「ええっ!じゃあ、どうすればいいの?」

ルイは、オドオドとしている。

「じゃあさ、私につかまりなよ」

ルイは目を丸めた。

「だ、ダメだよ…だって、僕は、男だし…」

「え?ルイは男だけど、弟みたいじゃん。別に、私は気にしないけど」

「…そっか。ヴィクトリアにとって、僕は弟なんだ…」

「…?ルイ、なんか言った?」

「何も、言ってないよ?」

ルイは、柔らかく笑ったので、私は、思い切り地面を蹴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴィクトリアの獣人と魔法 橋結 @hashi-yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ