2日目 廊下
廊下は道じゃない。
部屋につながっている。ほとんどが室内にあって、時々渡り廊下とか体育館をつなぐ廊下が外に伸びる。それも屋根がついている。外に続く道路のように、畑の小道のように、田んぼのあぜ道のように、ビルの隙間のように、車道のようには続かない。
続かない道は道じゃない。
いや部屋に続いている。
部屋までたどり着けなかったら?
階段と廊下の繰り返しで、階段には鏡があって、似たような教室がズラーっとあって。鍵がないと家に入れないというのに。夜の当番の人はなんだか怖くて素直に忘れたと言えなかった。だから忍びこんだ。おねえちゃんと来たけど、恐々歩くおねえちゃんについていけなくて、私は走った。走るのは苦手、すぐ息が上がる。どれがおねえちゃんの教室か分からない。ここなんだろうけど入れない。私は廊下に1人で突っ立っていた。あとに来たおねえちゃんに悲鳴をあげられた、けどすぐそばに来た。鍵を見つけて帰る、小学校低学年の思い出。きっと本当はそんなに暗くなかったんじゃないかと思う。だから学校の鍵も開いていて、怒られなかったんだと思う。私たちにとっては私にとっては忘れられない思い出。
そんな私も大きくなって、夜の廊下が怖くなくなった。仕事だからなんとも思わなくなった。だけど道じゃないこの廊下を、走るのが苦手なのに何往復もしている。物音がする話し声がする。怖い、けどそれは意味が変わってしまった。みんなが必死に歩く練習をしている廊下は道だ。未来に続く道。私が道じゃないと言い張るけど、そこは道だ。もちろん部屋までたどり着けなくて途中で送り迎えが必要な人もいる。たったこの距離で、されどその距離を。転んでしまったらまた怪我をするかもしれない、頭をぶつけるかもしれない。だけどみんな廊下を歩く、歩きたいから。私の嫌いなこの廊下を。いいや本当は家の廊下を歩きたいから。送り迎えが遅いから。こんなことを考える自分が嫌いで、なんでこんなことをしているんだろうと思う。仕事だからだけど。
小さい頃の私はこんな大人になると思わなかった。学校の廊下を怯えながら走り抜けた私は、どこにもいない。どこか廊下の隅でかくれんぼしているのかもしれない。ああでもそこにいる。続かない道の中迷って突っ立っている私がいつも、ここにいるだけ。
ふと何をすればいいかわからなくなった私は、忙しく人も物も動く廊下で立ち止まった。廊下のど真ん中で突っ立っていた。頭の中に小学校の時嫌いだった、男の先生の声がする。たしかおてんばだった私をよく怒ってくれた先生だ。
ろうかをはしってはいけません
ろうかできゅうにとまってはいけません
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