第六幕 僕には言いそびれたことがある
「もしもし」
「ああ、俺だよ。俺」
「何でまた?」
「ほんと、何でだろうな」」
意外ではなかった。ただ、伝えたい言葉がある。その声を聞いた時、僕は震えた。
「あんた、趣味は?」
「えっ、いや、特には」
ぎこちない、だんまり。
「無趣味ですいません。読書、とか言えばいいんでしょうけど」
また、だんまり。
「じゃああんた、好きな映画は?」
「えっ?」
「無趣味でも、何か好きな映画ぐらいあるだろう」
少し間をおいて
「ショー・シャンクの空かな」
「あの刑務所の、最後にどんでん返しがある」
相手も知っているようだった。
「そう、空と海が綺麗で。それで、あなたは?」
「俺はサイダー・ハウス・ルールだよ」
「さいだー・はうす・るーる、どんな映画なんです?」
「優しい嘘もあるって映画だよ」
「はぁ」
「今度、観てみるといい」
「今度、ですか。今度。僕にはあるのかなぁ。実を言うと僕はこのまま終ってもいいと思ってるんですよ。世界は僕が居なくても平然と回っている。平然と明日を繰り返す。なんなら僕みたいなちっぽけな存在は消えていってもいいかなぁと。生きるというのは地球の、いや宇宙というキャンパスに、ただ一つゴミくずみたいな点を付けているに過ぎないんじゃ」
「聞こえねぇよ!」
「えっ?」
「くそっ! 夕立だよ! 通り雨だよ! 通り雨が電話ボックスを打ち付けて、聞こえねぇんだよ! こんな、か細い声!」
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