第五幕 俺とアイスクリーム

 何をやってんだ。俺は。こんな商売にも為らないやつ相手に。それよりも今すぐ電話を切って、次のターゲットに狙いを絞るべきだろ。なのに

「暑いなぁ」

「えっ? はい。そうですね」

「こういう時はアイスを食べたくなるよなぁ。こう、ラムレーズンとか。スイカバーとか。サーティワンのトリプル乗せとか」

「ああ、あのコーンの上に三つアイスが乗っているやつですね。でも、あれ、もの凄く食べづらいですよ」

「本当に食べたのかよ。いいな、ブルジョワは」

 何を話してるんだ。

「中学生のときですよ。その日で人生終ったら、何をしようかと考えてたら、そんな贅沢が。そういや、あの日も暑かったなぁ」

 もう止めろ。

「結局、アイスが溶けていって、一番上の一つがずれ落ちそうになって、必死で手で支えて」

 もういい。

「あの時と変わってないなぁ。結局、僕は僕のまま、この年齢になっちゃたんですよ」

 ああ。

「わかった。じゃあな」

 受話機に叩きつけるようにして、電話を切った。額をぬぐう。気がつけば汗でびっしょりだ。まったく無駄な時間だった。何をしようとしてたんだ、俺は。

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