第四幕 僕は語る

「サボったんですよ。ショウもない仕事でしたから。毎日毎日同じ繰り返し。がっかりして、怒られて、人を騙して」

「騙すのはこっちの専売特許だった筈だけどな」

「何処でも一緒です。多かれ少なかれ、みんな嘘をついている」

「そんなもんか」

「そんなもんですよ」

 深く息を吐く。

「もともと僕は嘘をつくのが苦手なんです。我慢して嘘をついても、それが顔に滲み出てしまうようで。だから営業成績もドベの方なんですよ」

「それで逃げたってわけかよ」

「えっ」

「実家にまで逃げたっていうのかよ。ホームシックにでもなったのかよ。くだらねぇな」

 えぐられた感じだった。

「本当に何で実家に帰ったんでしょうね。色々なことに疲れたのかな。懐かしいものに触れたかっただけなのかもしれません」

 少しの沈黙。ついで

「でも、甘えられる場所があるってのはいいな。俺なんか親父からカンドウされちまったよ。で、詐欺師の真似事してるわけだけどな」

「強いですね。僕なんかには無理だなぁ」

「何言ってんだ。仮にも社会人として、やってんだろう。あんたの方が立派だよ。俺なんかよりも」

「けど、落ちこぼれですよ」

「けども何もねぇ。あんた、自分が思ってるよりも、しっかりやってるよ」

 知人の言葉ではそこまで響かなかっただろう。ただ、あかの他人だからこそ、他人だからこそ、響くこともある。心の底の方が暖かくなった。ありがとう、と言いたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る