第三幕 俺は話しかける


 ベルが鳴り続ける。何しろ緊急事態だ。何回でも待ち続ける。十回、二十回、三十に至るまでに繋がった。

「もしもし、相澤です」

 生気のない低い声だった。父の方か。

「オレだよオレオレ、直也だよ。ちょっとバイクで事故ちゃってさ。あっ、身体は大丈夫だよ。心配要らないよ。それよりお金がさ。警察官も来て大変なことになってるんだ。今、代わるよ」

「あのぅ」

 調子と共に声色を変えて

「もしもし相澤さんのお宅ですか。こちら四谷警察署の斉藤です。あの、ですね。息子さんがトラブルを」

「いや、あのぅ」

 俯いた返事がじれったい。

「何です?」

「直也は僕ですが」

「はぁ?」

「振り込め詐欺。オレオレ詐欺と言うものですか。もう古いものと思ってたのに、今もやってるんですね」

「そんな心外な。ちっ、違いますよ」

「だって直也は実家に居て、今話している僕ですよ」

 何だと。恥じぃ。全身から、どっと汗が出る。よりによって本人の前で、こんな猿芝居を演じていたのか。

「何やってんだよ」

「え?」

「仕事とかあるだろ。何であんたが実家に居るんだよ」

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