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 本日三杯目のドライジンを作って客に差し出す。金曜の夜は新規の客が比較的多い。あと、給料日の週にだけ現れる若いサラリーマンとか。だからほんの少しだけ、いつもより流すジャズの音量を上げている。

 程よい忙しさ、くだらないのについ興味が出て聞き耳を立ててしまう会話、それらに心地よい疲れを感じながら仕事に没頭していると「マスター」と小さな声で呼ばれた。斉藤君だ。

「どうした」

「か、彼女が来ました」

「え?」

 斉藤君の目が爛々と輝いた。扉の前に居たのはグレーに近い水色のワンピースを着た華奢な女の子だった。

「じゃ、斉藤君よろしくね」

「え」

 トン、と背中を押すと焦った声が聞こえたが無視。俺はタイミングよく呼んだ端の客に顔を向けた。

「いかがなさいました」

 営業スマイルを浮かべつつ、耳は斉藤君の声を聞かんとしている。どんな会話をするのだろう。なんて、親父か俺は。

 程なくして店内が落ち着いた頃、斉藤君はその子となかなかいい雰囲気で話していた。その子が入口近くの端に座ったため、しっかりと顔なんかは見ていなかったが、どうやら斉藤君が言ったように可愛らしい顔をしているようだった。今どきって感じの雰囲気で顔も小さいし、爪も綺麗にしているよう。斉藤君とお似合かもしれない。なんて、思った、が。

「あれ、なんで」

 つい、言葉が出てしまった。素で。マジで素で。

「え?」

「あー! やっと気づいたぁ!」

 その子が俺を指差して言った。その顔をまじまじと見る。何で気付かなかったんだろうか。俺はバカか。

「ミヨ、なんでお前なんだよ」

「えっ、何よそれどーゆー意味!」

 途端に落胆して膝を折る。マジか。

「えっえっ、マスターお知り合いなんですか?」

 驚いたようなどこか嬉しそうな声が降って来た。そうかそうか、斉藤君は知らないのか。

「斉藤君」

「はい?」

 勢いよく立ち上がると、斉藤君の肩に両手を乗せた。

「君は騙されている」

「え」

「あっ! 人聞き悪いー! 感じ悪―い!」

 ブーブー、とミヨは横槍を入れてくる。えぇいうるさいうるさい。

「マ、マスター?」

 不安そうな斉藤君の顔を見て申し訳ない気持ちになった。俺がもっと早くに気付いていれば・・・

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