金曜の真実
カゲトモ
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「おつかれさまでーす」
「おつかれさま」
粗方仕込みを終えたころ、勝手口が開いて斉藤君が出勤してきた。 もうそんな時間になっていたのか。
「マスターマスター、聞いてくださいよ」
バーテン服に着替え終えた斉藤君が興奮気味にテーブルを拭きながら言ってきた。
「なに?」
仕込みで使った食器を洗いながらそちらを向くと、斉藤君はほろ酔いのようにうっとりとした顔をした。
「めっちゃ素敵な人を見たんですよ」
「素敵な人?」
「素敵って言うか、何て言うか。可愛いし、上品だし、可憐だし、セクシーだし、もうなんかすごく綺麗で素敵で良い女性って感じで!」
「へぇ、そんな人が」
「はいっ! さっき駅で見掛けたんですよ。誰かを待っている様子でした。やっぱり彼氏かなぁ」
その声には残念さが滲み出ている。そんなにいい女なのだろうか。ちょっと見て見たいな、なんて。
「なに、斉藤君はその子みたいな子がいいの?」
何気なしに訊いてみると、「えっ!」と肩を小さく跳ね上げて驚いたような表情をした。
「そんな、俺なんて釣りあいません」
「釣りあわない?」
「だって、絶対年上だし。綺麗だし。俺なんて見向きもしてもらえないです」
「そんなことないと思うけど」
斉藤君だってその辺のモデルよりよっぽど格好いいと思うけど。いや、実際いい子だしモテないどころか彼女がいない事も信じられないくらいだ。世の中の女子は何を見ているんだ。スマホの画面ばかり見てないで、周りにいるいい男を見ろよ。勿体ない。
「そんなことありますっ!」
斉藤君はちいさく唇を尖らせるとまたテーブルを拭き始めた。開店まであと三十分だ。
「じゃぁ、せめて。もし今日その子が来たら教えて」
「はい」
もしフリーならば斉藤君の淡い恋を叶えてあげられたら、あわよくばいい思い出だけでも、なんて感情が生まれた。俺も年を取ったもんだ。
素敵男子の斉藤君に一目惚れされた女の子とは、一体どんな子なのだろう。
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