かくて、死神はみえざる死の刃を振るえり
アーデルハイト・フォン・オッペンハイマーかい。その
いや、まだ何もしちゃいねえ。ちょっとは落ち着いて聞きいてくんな。
畜生、俺のほうが苛立ってるみてえだ。
どうしたのかって? いまそいつをいおうとしてたとこだ。
へっ! なんの
こいつはどうみたって胡散臭い。
公子様はみずからのご意志で自宅謹慎中だそうだ。
つまり、失意のせいで引きこもっているってこった。
俺は
公子様は広い庭園を
軽装だが一応武器は持ってるか。
俺は声を掛けてやってから、黒い刃の短刀を弄びながら姿を現す。
向こうは剣の
こちらはゆったりとした風情で近づいていく。
召使い連中はあらかじめ魔眼で眠らせている。
向こうは突きを放った。
ちょいと脇へ避ける。
さらに突いて来るのを、ひょいひょいと
今度は薙ぎ払って来る。
距離を見切って半歩下がる。
振りかぶったので前へ出て足を払う。
あちらは地面に片手を
体を屈して跳ぶ。
空中では軌道を変えられないとみたようで決め技のつもりの突きだ。
ふわりと羽毛のように、片手で刃の上に逆立ちし、
剣を手放して吹っ飛んで、転がりながら距離をとり、起き上がると俺を睨む。
お遊びはここらあたりまででいいか。
みえざる刃が奴の右腕、そして左腕を切り飛ばす。
叫びは消音の術に呑まれ、力を失った体が
出血で死なれちゃ
一度、ふさいだんなら後はもとの
ロープの輪っかを首にひっ掛けて女のことを吐かせる。
オークってのは醜い癖に好色で、人間の美しい女を
あれだけの美人だ、さぞかしいい餌だったろうよ。
君は彼女を怨んでいるかもしれないが、あれは
なにやら私に好意を持っていたようだが、あんな女らしい潤いのかけらもないような、かさかさした女に興味はなかった。むしろ、君の復讐を代行して上げたといっていいだろう。
だらだら汗を掻きながら、べらべらと喋くりやがる。
立っている樽を蹴り砕いた。体が振り子のように跳ね上がって落ちる。
ぎしっと音がしてロープが張り詰め、ダンスを踊るようにきりきりと回る。
公子様は白眼になって舌を垂らし、糞尿を撒き散らしながら痙攣した。
誰が
俺が
まして豚共の餌なぞ、
こちとら、その女らしさのかけらもねえ糞女に惚れてるんだ。
あれで結構、汁気はたっぷりあったんだぜ、夜中に一人で自分の体
騎士団といわず、この国にはいまだ女性蔑視の風潮が残ってる。
当然だが、女騎士などそれほどいはしない。
なりたいってのは少ねえ、なれんのはなおさらに少ねえ。
あの女の性格は最低最悪だったが、剣の腕だけは人並みはずれてた。
騎士共にしたら自分らより強いし、かわいげない女なんぞ歓迎するか。
家柄も男爵よりは高いが伯爵より低いって中途半端だ。
下からは妬まれるし上からは
女なことの特例を認めないとなりゃ、返っていろいろ面倒やら不都合が生まれる。
例えば、着替えとか寝る場所とか、お花摘みや糞とかそんなもんだ。
そこらへんを当たり前みてえに要求してたんでよけい反発をかった。
いまにしてみりゃ、あいつも必死で肩肘張ってたのかもな。
そこへ、蔑まれてる
なので、目障りになって排除したとかそんなとこだろう。
遠征をいいことに穢らわしい亜人の女でも抱いて、病気を貰ったんだろうと嘲笑をかうことになる。
実は俺の邪視を食らったせいだがな。
連中の死体は疫病の恐れがあるってんで、病の者を
だが、俺はその頃そこにいはしなかった。
昼夜を通し、女が置き去りにされた場所へと走ってた。
そしてやがて、丘陵地帯にオークが築いた石の砦を探り当てた。
オークは愚鈍だが力は人間に数倍する。
いくらかでも知恵の回る統率個体が現れて人間の砦をみれば真似ることもできるだろう。
ましてやそいつが、キングなんてのだとなりゃ、内輪揉めで減らない分だけ、倍々で数が膨れ上がってく。
今回はそれだな。
俺は砦へと潜入を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます