盗賊さんは女騎士(くっころ)さんにくっころいわせる

壺中天

片腕となりし盗賊は暗き深淵へと潜りゆき


 ある盗賊が物語る


 ……………………


 アーデルハイト・フォン・オッペンハイマーときたらひでえ女だ。いくらお偉い貴族だか騎士様だかしらんが、あんな高慢ちきで心の頑ななアマはみたことねえ。


 たしかに美人なことは美人だ。鍛えられた体はひき締まって腰はほせえ、甲冑に隠れてるが胸はけっこうでけえ。

 けど、俺はごめんだね。白金の髪は綺麗だが、鋼色はがねいろの眼は剣呑だ。


 あの尼は盗賊の俺を蔑み、頭っから盗みを働いたり、人を騙したり、殺しをしたりするもんだと決めつけてやがる。

 ま、裏ギルドの奴らはそういうこともするさ。

 だが、俺はまっとうな冒険者で、偵察や罠の発見に解除、地図画きにお宝の鍵開けとかの役目なんだ。

 兵隊でいえば斥候みたいなもんだ。


 ところがなんでだかしらんが、どういう不幸なめぐり合わせだか、騎士様達がカイネン丘陵地帯の迷宮を探索なさるてーのに案内させられるはめになっちまった。

 いやだいやだよ、やりたくねえ。

 奴ら、頭固てえし融通きかねえし、新人の餓鬼ども引率するより厄介なんだよ。


 笑えることに女騎士さんは、ご同僚であられる耀く金髪で青き瞳麗しき貴公子コンラート様に惚れていらっしゃる。

 当人は隠しているつもりのようだが、みるものがみればみえみえの態度だ。

 生憎、相手はもっとおつむの足りない、あるいは足りないようにみせれるくらい賢い、如何にも女らしい女のほうがお好みらしい。

 まあどうせ、同じ貴族といっても身分に差がある。

 かなわぬ恋ってわけだ。

 夜半よわにこっそり、立木へ股ぐら擦りつけて自分の体を慰めてたぜ。



 散々すったもんだしたあげくに、ようやくどうにかこうにかなって、俺もお役御免になれそうな矢先やさき、虹の宝珠オーブとやらを盗んだって疑いがかけられた。

 当世じゃ、盗みで捕まったら刑罰がおめえんだよ。

 一回目なら右の手首を切り落とされ、二回目なら左手も切り落とされる。

 あの女は剣をいきなり抜くやいなや、俺の右腕を肩の付け根から撥ねやがった。

 おさえつけられてる俺に宝珠をだせとぬかす。

 しらねえと返すと、俺の左目に指を突っ込んで眼球めだま穿ほじくり出した。

 神経を引き千切られる痛みは半端じゃなかった。

 後になって、お抱えの魔術師がくすねたんだとわかった。

 あの女は自分の誤りだと認めず謝ろうとしなかった。

 どうせこれまでに数え切れぬほど盗みを犯して来ただろうと嗤った。


 ああそういうんなら、そうなんだろうよ。

 ならそうなってやる。

 盗み、犯し、殺してやる。

 おめえを必ず、そうしてやる。


 片腕は盗賊にとって不名誉の印だ。

 罠の解除も鍵開けも禄にできねえ。

 二度目に捕まったらお終いだ。

 だが、俺は盗賊をやめなかった。

 裏ギルドよりもさらに深い闇に身を堕とす。

「片腕の盗賊」とか「死神」と呼ばれる暗殺者になった。

 暗く深い迷宮のさらに暗く深くへともぐっていった。

 ひたすら息を潜め隠形で身を隠しながら――。

 最深部でついに手に入れる。

 それは魔眼と呼ばれる眼だ。

 そして神の手といわれる手。

 ただし、みえざる死の刃を振るう、みえざる死神の手だ。



 さあ、待ってな。女騎士さん。

 これから、祭りがはじまるぜ。



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