第13話 向き合うのは苦手です。

 眠るヒトセさんの青白い顔を見つめながら、冷たい彼の頬に頬を寄せて熱を分ける。



「なんとか負傷は治したが、抜けた血は戻らない。せめて温めて、少しづつでも栄養を摂れれば、回復する見込みもあるが。傷を癒やしてしまった以上、もう私にできることはなにもない」


 治療の報酬としてマレーグマ(高級品)を魔術医に渡し、私は手伝いを雇って彼を家まで連れ帰った。

 魔術医の言葉を信じて、彼の眠るベッドに薄着でもぐりこむ。

 低い彼の体温に胸が痛くなりながらも、すこしでも体温を分けようと大柄な彼にしがみつく。

 日が高くなれば、名残惜しく思いながらも、ベッドを出てスープを作る。

 ドロドロに煮込んだそれを、口移しで彼に与える。

 正直に言って美味しくない。美味しくないけれど、滋養強壮の食材がたっぷりと入っている。


 丸二日そうやって看病した。


 体温が戻ってきた大きな体を、その夜も腕に包んで目を閉じた。

 もしかしたら、体は治っても意識は戻らないかもしれない。

 そんなことになったら、私は、この思いをもう彼に伝えることもできない。


 そして、彼の家族にどう伝えればいいのか。

 もしこのまま半年、この世界で寝たきりだったら、きっと、大好きだった祖父の晩年のように、見る影もなくやせ細ってしまうだろう。


 血気盛んでけんかっ早かった祖父が足を痛めて入院し、それからどんどん体が弱り、最後の一年は病院のベッドに寝たきりだった。

 大好きな祖父の見舞いに通っている私の前で、祖父の自慢の筋肉はあっという間に痩せていった。

 痛みにのたうつ祖父に、もう、殺してくれと請われ、できない自分の哀しみとか無力さで身が引き絞られるようだった。

 命を分けることができるなら、分けてあげたかった。痛みを引き受けられるなら引き受けたかった――元気になって、もう一度稽古をつけてほしかった。

 だけど、世の中のことわりは、私のそんな願望を叶えるはずもない。

 骨と、皮。

 亡くなる間際の祖父はそんな様子だった。胸が痛くて、痛くて……真正面から目を見ることができなかった。

 祖父の姿を思い出し、彼もそうなってしまうかもしれないという恐怖を感じて、彼を抱きしめる腕に力を込めた。


「ヒトセさん……お願い、目を覚まして……あなたを、失いたくないの……大好きって、まだ、伝えてないの……っ」


 力ない呟きが闇に溶ける。


 私は彼の呼吸を聞きながら微睡みのなかで、彼に伝えたいことをしてあげたいことを、とりとめもなく考えた――

 

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