第12話 あれから、そう……半年。
こちらの世界でだまし討ちのようにヒトセさんの嫁になり、向こうの世界に戻ったらちゃんと籍を入れることになりました。
式も挙げようと言われたのですが、諸々面倒なのは身近な従姉妹のソレを見ていやというほど知っていたので、いっそ入籍だけでいいと言ったら嘆かれ説得され、最終的には披露宴はなしで、式と写真は撮ることになった。
ここに至るまでに実は半年かかっている。
結婚する前も、憎からず思うようになっていたのだが、だがしかしだ、勝手に結婚させられて黙っていられようか? 否。
冒険者として二人で働きながらも、当初ヒトセさんはひたすら私に謝罪と、口説くのを続けていたのだが、私はそれを簡単に受け入れることができなかった。
勿論恥ずかしかったというのもあるし、途中からは受け入れる切っ掛けが見つからなかったからだ。
しかし、ある時を境にそれがぴたりと止まってしまう。
幸いなのか、否か。
口説くことはなくなったとはいえ、ヒトセさんは私を気にしていて、大事にしてくれるのは変わらなかった。
異世界に来た影響なのか、身体能力の向上した私達は、『魔の森』と呼ばれる魔力が一切使えなくなる森で、動植物の採取を中心に活動し、
はっきり言って無茶苦茶割の良い仕事だったので、すぐに小さな家を持てるくらいにはお金も貯まり、このまま貯めててもどうせ向こうの世界じゃ使えないからと、森の近くに小さいながらも家を持った。
土足厳禁、キッチンはオープンタイプで居間と続きになっていて、寝室は……予算の都合でひとつだけ。
二人で少しずつ『家』にしてゆく。
日曜大工を好んでいた彼が家具を手作りし、訳あって裁縫が得意な私が布小物を作り――二人が居心地よくなるようにと、二人で育てていた。
周囲の人は私達のことを仲の良い夫婦だと言った。
だけど、私達は夫婦ではなかった。
同郷の同志なのだと、私は思っている。
あの時自分の心に素直に、彼からの不器用な求婚……を受け入れればよかったと、何度思ったか知れない。
あの求婚に、心が伴っていないのだとしてもそれがどうだというんだ。向こうの世界に居たのなら、きっと一生交わることのない人生を送っただろう、
言ってしまえば、この年までお付き合いした男性はなく、なんとなくこのまま結婚しないで生きて行くのだろうなと、半ば覚悟を決めていたのも悪かったのかもしれない。
チャンスの女神様は前髪しかないとは、よく言ったモノで。
チャンスはほんの一瞬だったのだと、通り過ぎてから知った。
彼は年上で、できた人だから、こんなひどい私にも普通に接してくれる。
それが、余計に辛かった……。
それでも、悔いてることを悟られるのは
勿論うわべだけで笑っていたのでは無いけれど、時々疲れて、里心が溢れ出し、こっそりベッドの中で涙を流す夜もあった。ベッドは違えども、同じ室内だからバレるかとも思ったけれど、彼は寝付きがよくて、ひっそり泣いてもバレた事はなかった。
バレちゃえば良かったのに。
そうしたら、彼のことだから、きっと慰めてくれたに違いなくて。
森で狩りの最中にそんな事を考えてたのが悪かったのだ。100%悪かったのだ。
半年もあれば、狩りをするために槍や弓を扱えるようにはなっていた(異世界補正が効いているのだと思う、そうでなければ、か弱い私が熊っぽい猛獣とタイマンできるようになるはずなんてないんだから)。
動きが器用なので私達がマレーグマと呼んでいるその獣の、いつもなら余裕で避けることのできる倒木を使っての攻撃に私は気づかず。
私を庇ったヒトセさんが、重傷を負ってしまった。
全身打撲、左腕左足、肋骨も数本、くわえて脳しんとうをおこし……獣の前で意識を失った。
私はぶち切れて、いままで使うのを躊躇っていた剣を取って獣を八つ裂きにした。
泣きながら、八つ裂きにした獣の上に大柄なヒトセさんを乗せ、落とさないように気を付けながら町まで引きずって帰った。
過去にも何度か世話になった魔術医の家に直行し、彼の治療を頼んだが。魔術医は引き受ける際に「覚悟はしておきなさい」と私の目を見て告げた。
心臓が凍るかと思った。
涙は止まり、私は彼が治療を受ける部屋の前で一心に祈った。
どうか、どうか、彼を助けてください。
ただそれだけを。
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