第11話 え、そう来る?

 私の覚悟を返せ。


 私の右腕に付けられた太い腕輪バングルと、彼の左腕に付けられたお揃いのそれを見比べる。

 結婚腕輪ですってよ。一年経つ毎に細工を少しづつ彫り込んでいく形式だそうですよ。それで、結婚年数とかざっくりわかるんですってよ。へ~ぇ。

「なるほど、既婚者だったら、余計な虫がこない。……ってそんなわけあるかーい! ヒトセさんあんた、散々既婚者からも迫られてたじゃない!」

「女性の重婚は認められてるが、男は認められていないから、大丈夫だ」

 胸を張る男を見上げる。

 そういや、女性は腕輪を何本もしてる人が居るけど、男の人は一本だけだな。

 いや、納得している場合ではない、寝ている間に付けられたこの腕輪、ゆるゆるに見えるのに抜けない外せない。

 留め具を探している私に、ヒトセさんが「それは魔法がかかっているから取れないよ」と……そんなん言われても意味、わかんない。

 いや待て、冷静に考えてみよう。

「ダミーの嫁になってほしいなら、そう言ってください。こっちに居る間だけの、契約結婚ってやつなんでしょ」

 これが正解とばかりに言えば、首を横に振られた。

「いえ、真面目な結婚です」

「へぇー真面目な結婚」

 見上げる私、見下ろす彼。

「マジか」

「マジです」

 見下ろす彼、見上げる私。

「んー。はい、先生!」

「なんですか、テンちゃん」

「……テンちゃん……まぁいいや。私、告白も、プロポーズも、婚姻届に署名もしておりませんが」

「いい所に気づきましたね」

 そう言うと、ヒトセさんは実にスマートに、その長い足を折って床に正座し……深々と、床にデコが付くまで頭を下げた。

「結婚してください! お願いします!」

「Oh……」


 額に手をおいて、天を仰いだ。

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