終章8話 僅かな希望

 マシン子が眠り続けている理由は、医者に観せても解らなかった。


 原因が解らないのは彼女が人工生命体であるのと何か関係があるのかも。

 そう考えた俺は、すぐに菊川さん――お義父さんを呼びに行った。


「これは拙いね。龍石ドラゴライトのエネルギーが尽きかけている」

「マシン子はあと十年近く生きていられるはずじゃ……」


「最大で九年だけれどね。しかしこの状態から察するに、真真子の寿命はあと三ヶ月あるかないか……」


 どうしてそんなことに……。


「私にも詳しくは解らないが、子供を産んだことで龍石のエネルギーを激しく消耗したと考えられる」


 真義は俺達にとって愛の結晶で希望そのもの。

 希望を手に入れたせいで絶望が歩み寄ってきたというのか。


 何も考えずマシン子に子供を産ませた俺の責任だ……。


「お義父さん、何とか助ける方法はないんですか?」

「寿命を伸ばすだけなら新たな龍石さえあれば可能だろうが――」


「本当ですか! じゃあすぐに探して――」

「まあ待ちたまえ。龍石を精製した龍酸化ドラゴニウムを体内に注入すれば確かに寿命だけは伸びるだろう。でも昏睡状態を治すのは不可能だよ」


 意味が解らない。

 寿命が伸びるってことは、病気が治るってことじゃないのか?


「龍石は龍神の老廃物みたいな物だといわれている。しかしね、老廃物といえどもそれは人間が理解できる範囲を越えた物質。私達日元人はメカニズムが解らないままそれを使い続けているわけさ。解っているのは寿命が伸びることだけで、病気や状態改善には一切効果がないのだよ」


 じゃあ、マシン子は……。


 彼女を世界一幸せにすると誓ったのに。

 まだまだこれからなのに……。


「可能性があるとすれば、『生きた龍石』くらいか」

「それはどこに行けば手に入るんですか! 教えて下さい!」


「どこといわれてもねぇ。そもそも龍神とは星の力を偶像化した呼び名であって、物質として存在する物ではないんだよ。龍石がこの星の核から排出されることをしった古代の人達が仮定したエネルギー体のような存在で、生きた龍石というのも非常に抽象的な――」

「そんな説明はどうでもいいです。要は星の中心にマシン子を治せる何かがあるんですね?」


「かもしれないし、ないかもしれない」

「でも可能性はある、と」


「まあ、そうだね」


 それなら俺の取るべき行動は決まっている。

 たとえそれが僅かな希望でも。

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