終章7話 忍び寄る絶望

 真義が産まれて二ヶ月が経過した。


 マシン子は家で育児に専念。

 俺は朝から晩まで行商に出向き、バリバリ働く毎日。


「おぎゃーおぎゃー」

「ただいま……っと。真義はご機嫌斜めみたいだな」

「お父さん、お帰りなさい。今、オシメを交換したのですが泣き止みません」


「じゃあママにおっぱいをもらわないとな。おっぱいは俺だけの物だけじゃないんだし。ハハハハハ」

「お父さん、微妙に気持ち悪いです。しかし残念ながらおっぱいはもらえません」

「おぎゃーおぎゃー」


 おっぱいがもらえないなんてことはないだろう。

 毎日パンパンに張ってるのだから。


「マシン子は出かけたのか?」

母姉様ははねえさまは奥で寝ています」


「育児って大変だから疲れているんだろうな」

「そのようです。起こしたのですが反応がありません」


 そんなに疲れているのか。

 でも起きてもらわないと、おっぱい的な意味で困る。

 俺は前菜だが真義はおっぱいが主食だからな。


「おぎゃーおぎゃー」

「ちょっと真義を頼む」

「解りました」


 奥の部屋を覗くとベッドの上でマシン子が寝ていた。

 いつ見ても女神のような寝顔だ――って、そうじゃない。


「マシン子、具合が悪いのか?」


 寝息を立てているので大丈夫だとは思うが、声をかけても揺すっても起きる様子がない。育児ってそこまで疲れるのか。これは明日から早く帰って手伝わないとな。


 でも今は心を鬼にして起こさなければ。


「マシン子やーい。起きてくれー」


 きつく揺すったりこそばしたり揉んだりしたのだが、全く起きる様子がない。人間ってここまで深く眠れるものなのか。


「マシン子、起きてくれ。おっぱいの時間だろ?」


 おっぱいの時間って、よく考えたら凄い言葉だな。

 一日のスケジュールにおっぱいが組み込まれていて、その時間は全ての人が無心でおっぱい揉み揉みを義務づけられているようなインパクトだ。


 それはそれとして。


 これだけ声をかければ何かしらの反応があっても良いのだが。

 マシン子は静かに眠ったまま、一向に目を覚まそうとしない。


 さすがにこれはおかしい……。

 俺はマシン子を抱えて部屋から飛び出した。


「ブラン子、マシン子の様子が変なんだ。医者に行くから真義を頼む」

「解りました。お任せ下さい」


 どうしたんだ。

 今朝までいつも通りだったのに。


 心の中に不安が生まれ、そしてそれはすぐに現実へと形を変えた。

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