終章6話 俺達の息子

 異世界での行商は相変わらず好調で、ネットショップの注文も順調に増えている。目が回るほど忙しいのにその忙しさがどこか嬉しく、毎日は充実していた。


 自由時間に価値を見いだしていた時期もあったが、あの時の俺は結局逃げていたのかもな、と思ったりもする。


 朝から夜遅くまで働く父さんの仕事を毛嫌いしていたが、あの時の俺は自分の生活しか見えていなかったのだな、と思ったりもする。


「ブラン子、梱包はあと何件だ?」

「あと十三件です、お父さん」

「義経、スレスレ人形の在庫が切れそうだ。発注してくれ」


「やたら売れるな、この人形。何が良いんだか」

「良いか悪いかは俺達じゃなくて客が決めることだよ」

「そろそろ人形専用のページを作った方が良いですね」


 今日も俺とブラン子と広島は和気あいあいで仕事をこなす。

 マシン子が戻ってくるまでは少し大変だが、このメンバーで乗り切ろうと思う。

 

 彼女の妊娠が発覚したのは結婚してから四ヶ月目のことだった。

 それまで気づかなかったのは、つわりがなかったのとお腹が全く目立たなかったからだ。


 先月まで業務に携わっていたマシン子は現在、産婦人科に入院している。

 予定日は明日。


 明日になれば愛の結晶が誕生する。

 そう考えるとドキドキが止まらない。


「有難うございます、ロック・レンジャーです。お世話になります。少々お待ち下さい。お父さん、病院からです」

「何だろう? 予定日は明日なのにな。……はい、もしもし。え? 解りました、すぐに行きます」


「どうしたんだ義経」

母姉様ははねえさまに何か……」

「一日早く陣痛が始まったらしい。抜けていいか?」


「当たり前だ、早く行ってやれ!」

「後はお任せ下さい」

「忙しい時に悪いな。じゃ、行ってくるぜ」


 マシン子の入院している産婦人科は院長が異世界関係者らしく、何かと秘密を守ってくれる。ちなみに行ったことはないが、内科にも外科にも果ては美容整形外科にも異世界関係者がいるらしい。


 産婦人科に到着した俺は急いで病室に――っと、病室にいるわけないか。

 どこに行けば良いんだ?

 落ち着け、落ち着いて考えるんだ。


 深呼吸、深呼吸。

 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。

 って、これはラマーズ法だ。深呼吸ってどんなだっけ?


「櫻井さんですか?」


 ワタワタしていると年配の看護師さんに呼び止められた。


「あ、はい。櫻井義経です!」

「奥さんとお子さんがお待ちですよ。さあ、こちらへ」


 お子さん?

 陣痛のしらせを聞いてから一時間ほどしか経ってないのに?


「あの、もう産まれたんですか?」

「ええ。とても早い分娩でした。それはもうスポーンと産まれましたよ」


「スポーンとですか」

「ええ、スポーンと」


 看護師さんに案内されて階段を登り、マシン子のいる部屋へ。

 部屋の中は甘い香りが充満していて、ベッドの上に赤ん坊を抱いたマシン子が座っていた。


「義経、来てくれたのね!」

「スマン、間に合わなかった」


「良いのよ。だって驚くほど早かったし、痛みもそれほどなかったわ。それはもうスポーンと産んだんだから」

「スポーンとか」


「ええ、スポーンと。さあ、貴方の息子を抱いてあげて」


 マシン子が抱いていた小さな命を、俺は恐々受け取った。

 力を入れると壊れそうで、でも思いっきり抱きしめたくて。


 俺が戸惑っていると、赤ん坊が顔をクシャっと動かした。

 まるで笑っているように見える。


「さ、猿っぽいな……」

「アハハ。そうね、私も思ったわ」


「お、男の子か、それとも女の子か?」

「息子っていったじゃない。男の子よ」


「だったら名前はアレで良いよな」

「ええ、もちろん」


 事前に話し合って決めていた名前。

 男の子でも女の子でも、その名前をつけると決めていた。


「マシン子、ご苦労様。産んでくれて本当にありがとう」

「義経、私を母親にしてくれて本当にありがとう」


 俺は腕に抱いた息子を見つめ、今更ながら自分の幸せを実感した。


 元気に産まれてきてくれて本当にありがとう、真義まぎ

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