終章3話 結婚します②

 結婚宣言をした後は大騒ぎだった。


 大量の特上寿司を注文する母。

 秘蔵の酒を持ち出してくる父。


 挙句の果てに押入れからカラオケセットまで出してきて、大音量でデュエットするものだから近所の苦情が殺到。しかし俺の結婚が決まったと説明したところ近所の人達も祝福してくれ、朝までカラオケ大会になってしまったのだ。


 マシン子も相当酔っ払って歌いまくり、俺は彼女の壊滅的な部分をまた一つしることができた。


 昼過ぎに起きると、カラオケセットの前で腹巻きとモモヒキを履かされて一升瓶まで持ったジャッキー人形が寝転んでいたので拳法着に着替えさせた。全く、油断も隙もないな。


 そして現在、俺達は異世界の地に立っている。

 俺達の内訳は俺とマシン子、そして俺の両親だ。


 マシン子と結婚するなら異世界の話は避けて通れない。

 だから父さんに恐る恐る異世界の話を切り出してみたのだが。


 最初は疑っていた父さんは徐々に興味を示し始め、挙句に自分も行きたいといいだしたのだ。母さんは興味なさげだったが、置いてけぼりになるのが嫌だったらしく父さんに着いてきた。


「義経」

「なんだよ」


「浪漫だな」

「え?」


「浪漫が溢れているな!」

「まあ異世界だからな」


「ずるいぞ義経、今まで浪漫独り占めとかずるいずるい!」

「落ち着け父さん、幼児退行しちゃってるぞ」


 雉巫女神社に着くと神社らしくない派手な装飾が施されていて『義経くんとその御両親 歓迎!』と書かれた幕が鳥居から垂らされていた。巫女見習い達も巫女服ではなくサンバ衣装になっていて、神社の境内全体がぷるんぷるん揺れていた。


 そういえば、マシン子が異世界転移したら菊川さんに情報が筒抜けるのだった。

 この呪術は何とか解除してもらいたいところだ。


「義経くんのお父様お母様、よくいらしてくれましたね。私が真真子の父親でここ雉巫女神社の神主を任されている菊川字羅四朗です」

「義経の父親、櫻井美智さくらい よしともです」

「妻の常子ときこです」


「菊川さん、今日はお願いがあって――」

「義経くん、真真子をよろしくね! 結婚式はここでいいだろう? 私は神主だからもちろん二人の結婚式を取り仕切らせてもらうよ。衣装直しは十回くらいしたいよね、食事もドーンと豪勢な方が良いよね。早く初孫の顔が見たいなぁ」


 全てお見通しってわけか。

 それにしてもこの浮かれよう。

 アンタ、どれだけマシン子を嫁に出したかったんだって話だ。


「お父様、有難うございます!」

「まさかこんな日を迎えられるとはな。私は今、感無量だよ」


「お父様っ!」

「真真子っ!」



 ギュッと抱き合うマシン子と菊川さん。

 血の繋がりはないが、彼女に対する愛情をヒシヒシと感じる。


「私は宣言する。真真子と同じ幸福を必ず他の娘達にも与えてやると!」

「お父様、素晴らしいわ!」

「菊川さん、アンタ渋いぜ!」


 菊川さんのことは今まで色々誤解していたが、根は良い人なんだと改めて思った。


蛮素子ばんそこ、こちらへ」

「そのように」


「胸を張れっ!」

「そのように」


 むにっ。


「いやーん」


 むにむにっ。


「いやーん」

「ア、アンタ何やってんだ」

「真真子さんのお父さん、一体何を……」

「い、異世界の風習かしら……」


 母さん、そんな風習はどこにもないからな。


「恥じらいの感情を持たせることこそ、自我覚醒への第一歩。私は努力を惜しまず揉み続けよう、彼女達のために!」

「お父様、素敵!」


 折角の良い話が台無しだよっ。

 マシン子も声援を飛ばしてんじゃねえよ。

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