幕間 アベンジャー②

「教皇様がお会いになられます。奥の間へお進み下さい」


 僕は促されるまま教皇の間へと進む。

 いつものことだが教皇様との面会はワクワクするね。


 この瞬間を楽しむために龍石を集めている、といっても過言ではない。


 奥の扉を開けると目の前に広がるのは雪景色ならぬ肉景色。

 部屋いっぱいに膨らんだ歪な肉塊に、天井から伸びたチューブが何本も装着されている。


 肉塊の表面に浮き出した太い血管が脈動し、その度、身体中の穴という穴から汚らわしい液体が滲み出す様子は、およそ人間の枠からはみ出している。


「ゴ……ブシュッ、タイギデアル」


 これがこの国の最高権力者。

 人間至上主義を掲げ、他種族を見下している変わり者。


「ほう、まだ言葉を喋れるのか。まだまだ龍石が足りないようだな」

「ヨリイッソウ……ブシュッ、ハゲ、ハゲハゲム……ブシュッ」


 いや、そんな言葉では生温なまぬるいかな。

 人間以外の生命体を侮蔑するクソ野郎だ。


「ククッ、哀れだな。アンタが軽視した人工生命体が今じゃアンタをバケモノに変質させている。自業自得とはこのことか」

「ノ、ノ……ブシュッ、ノダ」


 言葉は喋れるが、こちらのいうことは理解できていないらしい。


「自我が消滅して行く気分はどうだい? 人間至上主義のゴミクズ野郎!」

「サガッテヨイ……ブシュッ、ゾ」


「ああ、そうさせてもらうよ。あと一歩ってことを確認できたからな」


 一般にはしられていないが、龍酸化ドラゴニウムを何百年も摂取し続けると身体に異常をきたしてしまう。それは外見的にも内面的にもだ。


 愚直に任務を遂行し続けるMOKUBA型は教皇の変質に興味を持たない。

 彼女達は延命以外の『些細なこと』は気にしないのだ。


 そこに付け入る隙きがある。


 ロック・レンジャーは僕の産まれ持った異能を活かせる職業だが、それ以外の仕事に就く選択肢もあるにはあった。


 それでもこの職業を選んだのはひとえに教皇へと近づくため。

 この傲慢で腐ったバケモノに復讐するためだ。


「面会の終了を確認いたしました。教皇様への敵意を測定いたします」


 MOKUBA型はそういうと、ベッドギアを被せにきた。

 僕は瞬時に思考を切り替え、頭の中を変態的な妄想で満たす。


 取引きし続けるには『教皇様』への敵意を持たないことが絶対条件だ。

 僕の場合は敵意が大きいので、感知されない程に頭の中を無茶苦茶にする必要がある。


 これは一朝一夕には行かず、普段から無茶苦茶な状態に身を置いていなければボロが出てしまう。


「測定完了。教皇様への敵意は感知されませんでした」

「当たり前じゃないか。僕は君との戯れにしか興味がないのだから」


「では次回の納入も期待しております。御機嫌よう」

「はいはい、御機嫌よう」


 部屋から退出する前に、僕は一度だけ振り返って彼女を見た。


 父から見せられた写真の中で微笑む、母と瓜二つのその顔を。

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