終章 その先にあるもの
終章1話 装飾専隊ロック・レンジャー
腐敗の砂漠から南下し続けると、そこは秘境と呼ばれる地域。
日本地図に重ね合わせると、箱根山のある辺りから伊豆半島南端部にかけては密林に覆われていて、未だどの種族の領地でもない。
未知の植物が原生し、珍しくも危険な動物達が闊歩するその地域は一攫千金を夢見る多くの探検家や狩猟者達を魅了している、らしい。
「なあ、こんな場所に人がいるのか?」
「私のリサーチは完璧よ。ここなら呪術つきアクセサリーが飛ぶように売れるはずだわ」
マシン子をケイブリンから救出して一ヶ月。
最初はイチャイチャしながら過ごしていたが、そうしてばかりもいられない事情ができた。
ネットショップの販売成績が落ちてきたのだ。
生活のウェイトを二人の時間に割きすぎたせいで、鉱石採集もアクセサリー作製もおなざりにしてしまったのが原因だ。
生活基盤となる店の売上が落ちては俺達の将来に関わるし、広島達にも給料を払えなくなる。それに遅まきながら気づいた俺達は徹夜で話し合い、一つのアイデアに辿り着いた。
呪術だ。
呪術を使うには産まれ持った資質が関係しており、資質のない人間はどうやっても使うことができない。日元教国においての呪術資質持ちは国民の三パーセントに満たず、その殆どは教皇庁が囲い込んでいる。
そんな珍しい呪術を人工生命体であるにも関わらず、マシン子は使えるのだ。
美しくて頭も良くて気立ても良い、そして呪術も使えるのだから本当に素晴らしい女性だ。さすが俺の恋人!
――それはそれとして。
マシン子は中途半端な呪術しか使えないのだと思っていたが、そうではなかった。彼女は時間さえかければ高度な呪術をアクセサリーに付与する技術を持っていたのだ。さすが俺の恋人!
――それはそれとして。
日本で販売するアクセサリーには、問題となる可能性もあって弱い呪術しかかけられない。しかし異世界でなら存分に呪術効果つきのアクセサリーを販売できる。そこに気づいたのだ
呪術効果を必要とする人種は危険な職業に就いている場合が多い。
その人種こそ探検家や狩猟者と呼ばれる浪漫職に就いている人達。
彼等は日々、危険と隣り合わせの生活をしている。名声を求めて無理な探索をした結果、命を落とす者も少なくないらしい。呪術効果の付いたアイテムは喉から手が出るほど欲しいだろう。
ただ懸念材料もあって、異世界の貨幣や紙幣をどうやって日本円に替えるかが問題だった。
これについては困った時の菊川さん頼りで彼に相談したところ、まとめて換金してくれることで話がついた。俺の中で今、二番目に好感度の高い人物は菊川さんかもしれない。一番目は当然、俺の恋人マシン子だ!
――それはそれとして。
「あっ、停めて。向こうに誰かがいるわ」
「了解。……四人か。何だが慌てているな」
「怪我人を抱えてるみたい。一刻も早くここから脱出したいのね」
「それならお客様になるかもな」
俺達は自動塊から出て、その人達に近づいて行った。
頭頂部から生えた長い耳が人間ではないことを示している。
獣人ってやつかな。
「くそう、ここまで来て……」
「済まないみんな、俺のせいでこんな……」
「あんなモンスターがいるなんて聞いてないもの。仕方ないわよ」
「こんな時に魔法でも使えれば……」
「翻訳機は獣人語にも対応してるのか。ジャッキー関連の不遇さが泣けてくるぜ」
「誰だっ!」
一番ガタイの良い青年が声を荒げる。
「やあやあ、初めまして。お困りの様子ですがどうされました?」
「……見りゃ解るだろ。仲間がモンスターに襲われて出血が酷いんだ」
「それは大変ですねー。でも貴方がたは本当に運が良い!」
ジャランとカバンからアクセサリーを取り出すマシン子。
「なんだその装飾品は?」
「ここに取りい出したりまするは魔法のアクセサリー。運が良くなり身体能力も上がる至極の一品」
「病気や怪我に利く物もご用意しておりますよ」
「ま、魔法だって!? でもお高いんでしょ?」
「貴重な物だけにお値段もそれなりですが、この場で全額お支払い頂かなくても構いません」
「本当か!」
「ええ、ええ。所持金が足りない場合、自動塊でお国までお送りしますのでその時にでも残金をお支払い頂ければ」
「何て魅力的な提案なんだ。よし、そのアクセサリー買った!」
「毎度有難うございま~す」
呪術効果つきアクセサリーは、余程珍しいのか飛ぶように売れた。
おかげで完売、五分で時給三百万円也。
呪術効果万々歳、さすがは俺の恋人だ!
「良い買物ができた。仲間の傷口もみるみる塞がったよ」
「それは良かったですね」
「ところでアンタ達は何者なんだい? 狩猟者には見えないが」
聞かれたからには答えないとな。
徹夜で決めた台詞もあるし。
「魔法のアイテム取り揃え、貴方の笑顔を守ります」
「今日は東へ明日は西へ、誰が呼んだかしらないけれど。いつもニコニコ――」
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