幕間 アベンジャー①
第一王女を救った英雄。
ケイブリン王宮で僕の立ち位置はいつの間にかそうなっていた。
シーテはケイブリン王の一人娘で時期女王。
大臣っぽいケイブリン曰く、『聡明で勇敢なダマシーテ王女様は国民全ての憧れで希望の星』らしい。
彼女の父親である王様からは何度も礼をいわれて領地と爵位まで貰った挙句、いつまででも好きなだけ留まって欲しいと懇願された。よっぽど王女の無事が嬉しかったのだろう。
「領地や爵位に興味はないけれど、もらえる物はもらう主義だから断らなかったよ」
ここでの生活はすこぶる快適で、『何か忘れているな~』と感じながらも昼夜問わずドンチャン騒ぎを繰り返していたのだが。
今日になって、日元教国の教皇様に龍石を届ける期日が迫っていることを思い出したのだ。ギリギリで大事な仕事を思い出した自分に拍手。
僕は後ろ髪引かれる思いでケイブリン王宮を後にした。
「文字通り思いの中にしか後ろ髪はないけどね」
日元教国に向かう道すがら、僕はずっとシーテがくれたツノのことを考えていた。
『ゴロウの求婚に対する、これが私の答えよ』といって額のツノを折った彼女だが、一体どんな意味があるのだろう。
それより僕はいつ彼女に求婚なんてしたんだろう?
全く身に覚えがない。
さて、そろそろ日元教国だから服とカツラを装着しようか。
国境の大壁に到着した僕は、門兵に向かってヒラヒラ手を振った。
彼とは顔馴染みなので入国はフリーパス。
そのまま双竜を駆って教皇庁へ。
教皇庁の一階ロビーから昇降塊に乗り、地下十階へ降りる。
ここは教国のお偉いさんでも入ることを禁じられている特別な場所。
「陸奥誤朗様、ご到着お待ちしておりました」
「ホントに? 口説いちゃうよ? あ、それともベッドの上が良い?」
「その言葉は矛盾しております。ベッドへは口説いた後に行くものであり、ベッドの上で口説く必要性が見当たりません」
「必要はなくても、必然になるかもしれないよ。試してみる?」
僕を出迎えてくれたのは教皇様の秘書数人。
彼女達は教皇様の世話係で、MOKUBA型と呼ばれる人工生命体だ。
一定の周期で創り出され、その生涯活動時間を教皇様の延命処置だけに費やす存在だ。とても生きているとはいえない生涯だが、彼女達は何の疑いもなく業務を遂行し続けている。
教皇様もさぞ満足しているだろう。
自分のために、忠実な人形がせっせと龍石を集めてくれるのだから。
龍石を精製すると龍酸化ドラゴニウムと呼ばれる物質になり、それを微量摂取すると寿命が大きく伸びることを発見したのが今の教皇様らしい。もっとも、古代機人族の遺跡から発掘された文献を解読しただけみたいだけど。
千年以上前。
当時、病気を患い寿命を迎えようとしていた教皇様は、藁にもすがる気持ちで龍酸化ドラゴニウムを摂取したそうだ。するとどうだろう、教皇様は元気になり寿命が数十年も伸びたらしい。
「僕も又聞きしただけの話だから詳しくないけどね」
「何のことでしょうか」
しかし寿命は伸びたが病気は治らなかった。
死の影に怯えた教皇様は自分の延命処置を忠実に遂行し続ける『人形』創りに没頭し始めたのだ。
そしてとうとう、ある程度の自我を持って臨機応変に対応できる人工生命体を創り上げたのだ。
「ただの独り言だよ。僕は独り言大好き人間なんだ」
「カウンセリングをお薦めいたします」
彼女達が莫大な報酬を提示してロック・レンジャーに龍石を集めさせているので、教皇様の寿命は際限なく伸び続けている。逆にいうと彼女達がいなければ、教皇様の命はすぐにでも尽きてしまうだろう。
愚直に任務を遂行し続ける彼女達には感謝してもしきれない。
彼女達のおかげで、僕は生きる目的をなくさずに済んでいるのだから。
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