幕間 ディフェンダー

『五人がかりとは卑怯な! 妾の魅力は種族の壁をも越えてしまうのか』


 メグ族の援護をしていた俺の脳裏に声が響いた。

 それも今まで聞いたことのないほど美しい声が。


 周囲を見回し声の出所を探る。


 あ……!


 少し離れた場所でメグ族の女戦士がケイブリンに囲まれている。

 遠目にも解るほどキュートに離れた目。

 新海の神秘を体現したような大きな口と張り出したエラ。

 他の水妖達とは一線を画す整った顔立ちだ。


 声の主は気になるが、先ずはあの美しい女戦士を助けなければ!


 俺は心のクラッチを五速に上げ、彼女の元へ向かう。

 途中、ケイブリンが進路を塞いだがドラゴンフィストの前ではザコ同然。

 我が経験値となれる事を光栄に思うのだ、ブフッ。


 彼女は五人相手に善戦していたが、草に足を取られたのか体勢を崩してしまった。

 そこに死角から突き出された槍を右肩に受け、武器を取り落としてしまう。


『グハッ、ぬかったわ……。妾ともあろう者がこのような無様を晒してしまうとは。最早、生きる道はない。かくなる上は自害して……』


 いかん、いかんぞ。それは世界の損害だ!


 俺は心の加速装置を起動させ、彼女の元へとひた走る。

 五人のケイブリンは再度槍を突き出さんと構えに入っている。


 間にあえ俺! けるんじゃない、けるんだ!


 ザクッ、ザク、ザク――


 胸や腹に槍が刺さる。

 体験したことのない痛みが身体中を襲い、意識を刈り取られそうになる。

 しかし根性で耐えなければ。


『……人間? いや、オーク族か。いずれにせよ妾の救世主であることに違いはない。妾にいい寄ってくる男は数おれど、身を挺して護られた事なぞついぞ記憶にない。目の前のこの御方がなんと逞しく見えることか。その分厚い肉鎧はまるで浮沈要塞の如し。戦場だというにこの気持の高まりは……』


 あの声の主は彼女だったのか。


 容姿端麗で声まで美しいなんて。

 天はこの女性に何物与えたのだろう。

 この広島広斗ひろしまひろと、肉壁となり彼女をどこまでも護り抜く覚悟。


 身体中に刺さっていた槍を引き抜き、ニヤリと笑う。

 ケイブリン達は、そんな俺を見て戸惑っているに違いない。

 

 フフッ。俺の肉体は外壁二重構造。

 第一層の脂肪が衝撃を和らげ、武器の勢いを殺す。

 そしてその下に隠された鋼の筋肉が侵入物を受け止めるのだ。

 これで痛覚を遮断してくれれば最高なんだけどな。


 さあ、かかってこい。

 ただのデブだと思っていたらヤケドするぜ。


 武器を失ったザコは敵ではなかった。

 槍を地面に刺して挑発すると、ギャーギャー喚いて向かってくる。

 ザコがバカなのはお約束。こうでないとな、異世界! 


 向かってきた敵に心のチートスキル『時間停止』を使い間合いを詰めた。

 唸るドラゴンフィスト、弾け飛ぶ敵、舞い散る汗。

 俺は時という絶対的なシステムを味方につけ、ケイブリン達を霧散させた。

(※全て彼の妄想です)


「大丈夫か、メグたん」


 あ、ヤバい。

 ついつい元カノの名前で呼びかけてしまった。


『おお、妾をその名で呼んで下さるのか! メグ=タン。癒やしと恵みを与える女神メグ=サンの妹であり戦と勇猛の象徴。妾の美しさではなく勇猛さを称えて下さるとは。しかもその相手が勇猛果敢な真の戦士とあれば感慨もひとしお。心の臓が高鳴りを止めず、下腹がマグマのように熱くなっておる。嗚呼、どうかこのアケ・ミをそなた色に染めて下さいまし』


 何だか解らんが俺への好意をビシビシ感じる。


 義経、悪いがメグさんを紹介してもらう話はキャンセルだ。


 俺はこの完全版パーフェクトメグたんと共に生きて行くぜ。

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