幕間 参

幕間 ディザイアー

 闇の加護で地下遺跡に転移させられてから幾つの夜を数えただろう。

 私は今、ようやく地上へと戻り故郷を目指している。


 クアーッ


 屈強な双竜にまたがり、風を切って駆ける姿はさながら戦女神と見紛う気高さ。


 だというのに。


『だというのに、なぜこの男は私に上着の一枚も与えてくれないのかっ!』


「だって僕とシーテの基本装備は裸じゃないか。裸族の誇りを忘れてはいけないよ」

「無断で読心術を使うのは反則よ。それと私は裸族じゃないから!」


「読心術ではないのだけれどね」


 私と共に荒野を駆けるこの男はゴロウ。

 数多の大陸を渡り歩き、数々の発見をした現代の冒険王。

 ロックレンジャー・ゴロウその人だ。


 地下遺跡から抜け出す術を持たなかった私は、成行きで彼と同行している。

 傷の手当てもしてくれたし、悪い人間ではないと解ってはいる。


 でも何かにつけて龍神ダンスを披露する彼の行動は理解できない。

 いえ、理解はできているのだ。

 彼にとってあのダンスは龍石ドラゴライトを見つける儀式のようなものだ。


 理解できないのは、むしろ私。

 私の心。


 闇妖精ケイブリンは闇の加護を受けた種族。

 本能的な部分で他の妖精族より子孫繁栄に熱心で、産めよ増やせよをモットーとしている節がある。


 だからこれは私ではなく闇妖精としての性なのだ。

 彼の縦横無尽に揺れ動く龍神様を独占したいと考えるのは仕方ないことなのだ。


「それに着る物ならあげたじゃないか」

「これは着る物じゃなくて履く物でしょ。何よ、この歩きにくい靴は」


「ハイヒールといってね、異世界で売られている靴なんだ。父に頼んで呪術もかけてもらった貴重品だよ。その細い踵を見るとゾクゾクしないかい?」


 今の私は全裸に真っ赤な靴を履いただけの姿。

 この靴は回復系の呪術がかかっているのか、履くと体調がよくなる。

 高価な靴だとは思うが、なぜかそこはかとない恥ずかしさが襲ってくる。


 クアーッ


「目的地に近づいたようだね。この先の崖に君達の王宮があるんだよね?」

「ええ。ようやく帰ってこれた……。色々あったけど、ゴロウには感謝してる」


「あはは。その気持ちはいつか身体で返してくれれば良いからね」

「だ、誰が!」


『本当はすぐにでもこの男と戯れたい。でも王女としてのプライドがどうしても邪魔をしてしまう。闇の神様、願わくば今すぐ私の矮小なプライドを取り払って下さい』


「僕はいつでもバッチコイだよ。ユー、プライドなんて捨てちまいなよ」

「だから読心術は禁止って何度いったら解るのよっ!」


「読心術じゃないんだけどなぁ」

「まあ良いわ。貴方にはお世話になったから王宮へ招待してあげる。当然断らないわよね?」


「もちろんさ。君のお誘いなら喜んで招かれるよ。夜のお誘いもね」


 私をそんな目で見たことなんてないくせに。

 襲おうと思えば何度だって機会はあったのに。


「そうそう。王宮に全裸で帰すのもアレだからこれを着れば良いよ」


 そういって彼が広げたのは綺麗な布地でできたローブだった。


「持ってるなら最初から寄越しなさいよ!」

「裸族に服は邪魔かと思ってね」


「私は裸族じゃない!」


 この男の考えは本当に良く解らない。

 どこまで本気でどこから冗談なのか。

 何かの理由で道化を演じているようにも見える。


 胡散臭さしかないこんな変態男に、どうして私は惹かれているのだろう。

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