5章12話 熱い想い

 大きく息を吸い、気合を入れ直す。


 敵は額からツノの生えたケイブリン五人。

 亜種なのか上位種なのかはしらないが、どいつも全裸で丸腰で、武器になりそうな物といえばその股間から生えた汚らしい剣ぐらいだ。いや、短剣か。


 俺はドラゴンフストを放り投げ、短剣野郎達に殴りかかった。

 武器ありきだと、コイツらは一撃で霧散してしまうからな。

 楽に逝けると思うなよ。


 相手が反応して突き出した拳にそのまま正拳を打ち込む。

 間髪入れずに急所を蹴り上げ、更に身体を回転させてからの裏拳。

 仰け反った所で喉を掴み、そのままねじ切る勢いで捻り潰す――。

 ここで一体目が霧散したのですぐに別の相手へと回し蹴り。


 全裸というハンデがあるにせよ、外の奴らと比べれば幾分弱い。

 額のツノはこけおどしか。

 それとも戦場に立たず傍観する人種、いわゆる支配者階級か。


 相手を一方的に殴るのは趣味じゃないが、コイツらにそんな温情はかけるべきではない。マシン子をひん剥いてあられもない姿にしやがって……何て羨ま――酷い奴らなんだ。


 最後のケイブリンを霧散させ、床に落ちていた鍵でマシン子の鎖を解く。


「姫様、お怪我はございませんか?」

「義経……、うぐっ、怖かったよぉ」


 そういいながら俺に抱きついてくるマシン子。


 あれ?

 何だか調子が狂うな。

 てっきり気の利いた台詞が返ってくると思ったのだが。


 これじゃまるで、普通の女の子じゃないか。


「義経っ、義経っ、ううっ」


 彼女の体温が伝わるにつれ、これまで心に留めておいた感情が膨張し始めた。

 そしてそれが臨界を突破して大爆発を起こすまでに時間はかからなかった。


「マシン子、こんな時に何だが……」

「う、うん?」


「俺と付き合ってくれ」

「えっ……」


「もちろん、結婚を前提としてだ」

「で、でも私は人間じゃ……」


「絶対にお前を幸せにする」

「寿命もあと数年しか……」


「お前だけを見続けると約束する」

「ウェブページを作るのも下手だし……」


「それは認めよう」

「……もう、義経ったら! からかったのね。ホントに――」


 マシン子が何かをいい終わる前に、俺はその唇を塞ぐ。


「…………!」


 何が起こったのか解らない様子で目を見開いていたマシン子は、やがて瞼を閉じ充分過ぎるほどの依頼料を渡してくれた。


 永遠とも思える時間が終わり、俺達は名残りを惜しむようゆっくり唇を外す。


「私なんかで……本当に良いの?」

「お前が良いんだ」


「私、ワカメ料理しか作れないよ?」

「俺の母さんに教えてもらえる」


「……私も、義経のことが好き。大好きよ!」


 俺達は薄暗い洞窟で再びベーゼを交わした。


 空気が焦げるほど熱く激しく、そして甘いベーゼを。

 





 ~ 五章 了 ~

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