5章11話 待たせたな

 向かってくるケイブリンを殴り倒しながら洞窟入口を目指す。

 前回の失敗を胸に刻み、全方位への警戒は怠らない。


 とはいえ、ドラゴンフィストなる武器もあるしブラン子もいる。

 広島もどこかで奮闘しているだろうしメグさん達も暴れている。

 ズルムケカーゴ周辺には菊川さんを護るべく巫女見習い達が陣取り、近づく敵を容赦なく倒しまくっている。


 今回は勝てる要素が盛り沢山だ。


「義経様、洞窟までの直線上にいる敵を殲滅します。私の後方に着いて討ち漏らしの始末をお願いします」


 戦闘に余裕があると見て取ったのか、ブラン子は一気に目標地点まで突破するつもりだ。


「解った。遠慮なくやってくれ」

 

 片足立ちになり回転するブラン子。

 あの攻防一体スピン攻撃をやるつもりか。


 すぐにトップスピードへと達した彼女は、そのまま凶悪なつむじ風となって前進。

 ザクッ、ザクッ、ザクッと肉の引き裂かれる音と共にケイブリン達が消えて行く。

 まるで草刈り機に刈られる雑草のように、ブラン子の進路後方に道ができる。


 討ち漏らし? そんな物ありません。


『おお、妾をその名で呼んで下さるのか! 何と嬉しくも恥ずかしい事じゃ。このアケ・ミをそなた色に染めて下さいまし』


 どこかでラブロマンスが始まっているようだ。

 メグさんの話は聞き入ってしまう要素が多い。


 でも今は気を逸らせない。

 ここでやられたら元も子もないからな。


 ブラン子の先導で洞窟に辿り着き、そのまま内部へと侵入。

 最初はその殲滅能力を目の当たりにして呆気に取られていたケイブリン達が、遅まきながら洞窟へと殺到してくる。それだけならまだしも洞窟の奥からは新たなケイブリン達が迫っていた。ここからが本番ということか。


「義経様、内部の敵はお任せしても?」

「もちろん。ブラン子はどうするんだ?」


「私はここで外からの敵を迎え撃ちます」

「一人で大丈夫か……っと、大丈夫そうだな」


「はい。義経様のお姿が見えなくなり次第、散弾モードに入りますので」


 俺達が近くにいるとブラン子本来の能力が使えない。

 使えなくとも充分強いが、使った方が片づくのも早いだろう。


「解った、後で会おう」


 ブラン子に背を向け、奥から湧いて来たケイブリン達に突っ込んで行く。

 この洞窟内部はやや狭く、大人が二人並んで戦うには少し狭い。

 連携攻撃を得意とするケイブリンにとっては戦い難い場所だろう。


 突き出される槍を躱し、懐に潜り込んでドラゴンフィストを一発。

 霧散したケイブリンのすぐ後ろ、控えていた二体目をそのままの勢いで薙ぎ倒す。


 倒すと消えるので死体が残らず、足場が悪くなることもない。

 彼らの能力は厄介だと思っていたが、閉鎖的な空間ではこちらに有利な状況を作ってくれる。


 十体、二十体とケイブリンを霧散させ、どんどん奥へと進む。

 やがて湧いてくるケイブリンの数に陰りが見え始め、そこから三十体程霧散させた所で増援が止んだ。


 しかし霧散した奴らがまた戻ってくる可能性もある。

 今の内にできるだけ奥へ進まねば。


「ちょっと止めてよ! 止めてったら」


 マシン子の声!

 どこだ、どこから聞こえた!?


「いい加減に、アッ――待って! それは駄目、駄目だったら」


 枝道になった左側から声が聞こえる。

 通路の途中に掘られたような跡があり、その先にマシン子がいるようだ。


「嫌っ、止めてよ! 誰か……義経、義経助けて!」


 俺は声に導かれ、その空間へと突入した。


「その依頼、お姫様のベーゼで請け負うぜ」

「えっ? 本当に義経が……」


 両手両足を鎖で繋がれ、石造りの寝台上で大の字になっている全裸のマシン子。

 その周囲には数体の、こちらも全裸になったケイブリン。

 彼等の茎部けいぶを見るに何をしようとしていたのかは簡単に想像がつく。


「待たせたな」


 本当に待たせてしまったが、もう安心して良いぞ。

 コイツらの運命は既に決まってるからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る