5章10話 オーク参戦
ズルムケカーゴが着陸したのは苛電砲が着雷した爆心地。
地面は無残に抉れ、そこいら中でプスプスと黒煙が登っている。
これだけの惨状にも関わらず周囲にケイブリンの死体がないのは、例の霧散する手品で難を逃れたのだろう。
カーゴから飛び降りた俺達は、抉れて斜面になった地形を登って状況を確認した。
「駐屯していた奴らはいなくなったけど、洞窟前が騒がしくなってるね」
「だな。苛電砲に驚いたのか、洞窟からワラワラと出てきやがった」
「水妖の戦士団が森から飛び出してきました。土妖の戦士団も動きを合わせています」
以前に名前だけ聞いたことのある土妖は、全身ゴツゴツした岩のような種族だった。動きは鈍そうだが硬くて強そうな彼らは、一撃必殺の戦い方をするのだと見て取れる。
「おお、何だこのドリームビジョンはっ」
「どうした広島?」
「メグミを彷彿とさせる素敵な女性達があんなにたくさん!」
そこかよ。
目の前で繰り広げられている戦闘風景に血湧き肉躍っているのかと思えば、水妖の女戦士団に目を奪われていたとは。
「いかん、メグ族がピンチだ! 俺は行くぜ義経」
「おい、ちょ、待てデブ! 勝手に――」
「行ってしまいました。意外と素早い事実に驚愕しています」
脳内でメグ族という架空の種族までこしらえ、肉を踊らせながら駆けて行った広島。彼の中で鬱積された何かが水妖の女戦士団を見て爆発し、そのエネルギーが脂肪に伝わり加速を伴う走法でもって――って、それはどうでも良いか。
ケイブリンと水妖が交戦しているのは洞窟入口付近。
ここは水妖達と共闘した方が早く洞窟内に侵入できそうだ。
釈然としないが、結果的に広島の判断は正解だった。
「俺達も行くぞ」
「はい、義経様」
洞窟からはひっきりなしに新たなケイブリンが現れ、いつの間にか数で水妖達を上回っている。先程、苛電砲で霧散した奴らが戻ってきたのかもしれない。
「うおおおお」
「グゲッ!?」
俺は最も近くにいたケイブリンに死角から襲いかかる。
ドラゴンフィストを装着した腕を振り抜くと、その一撃で相手が霧散。
勢いを殺さずそのまま駆け抜け二体目のケイブリンと対峙する。
繰り出すドラゴンフィスト。
それを受けようと突き出されたケイブリンの盾は一撃で爆散し、キョトンとしている相手に追撃の正拳。
「グゲゴッ!」
二体目が霧散したのを目の端で捉えながら次の相手に向かう。
しかしこの武器は凄いな。
まるで豆腐相手に戦っている気分だ。
『クッ、次から次へと現れよって。妾の前に立ちはだかるでないわ!』
この念波は……!
メグさんも何処かにいるのか。
「しゅたっ」
全方向から俺に襲いかかってきたケイブリン達が一瞬で霧散する。
蹴散らしたのはもちろん、舞うように戦うブラン子。
混戦中なので礼をいう余裕はないが、ちらりと見れば次の獲物を霧散させた彼女がこちらにウィンクを投げてくれた。どういたしまして、の意味だろう。
肉襦袢の散弾はこの状況ではフレンドリー・ファイアになるので封印しているようだが、それでもブラン子の殲滅速度はずば抜けている。大人モードで喜々として舞う姿はまるで夜叉さながらだ。
『五人がかりとは卑怯な! 妾の魅力は種族の壁をも越えてしまうのか』
いや、違うと思うよメグさん。
強敵だと思われてるんだよ、きっと。
水妖の女戦士と対峙していたケイブリンに後ろから近づきフィスト一発。
「人間よ、かたじけない」
霧散したケイブリンを見て、お礼をいってきた彼女にペンダントを見せる。
メグさんの鱗を加工したそのペンダントを見た女戦士は大きく頷き、別の敵へと向かっていった。
『グハッ、ぬかったわ……。妾ともあろう者が……』
どうしたメグさん!
メグさん程の手練れが遅れを取るなんて。
対峙した数が多すぎたのか、それとも奇襲に遭ったのか。
それ以前にメグさんは何処にいるんだ!?
敵が多すぎてメグさんを探すどころじゃない。
『……人間? いや、オーク族か。いずれにせよ妾の救世主であることに違いはない。妾に言い寄ってくる男は数おれど、身を挺して護られたことなぞ
おっ。誰かが助けに入ったみたいだな。
それにしてもオークか。
確か空想上の化物で豚みたいな風貌をしているんだったっけ?
水妖に土妖にオークにケイブリン。
さながら亜人の博覧会だな。
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