5章8話 龍の拳

 空の移動はどうにも不安がつきまとう。

 それがズルムケガラスに直接乗るより安全だとしてもだ。


「義経くん、真真子とはどうだね?」

「どうといわれてもな」


 ズルムケカーゴ。

 精巧な飾り具で装飾された二羽のズルムケガラスに、これまた精巧な飾り具で装飾された巨大なカーゴをワイヤーで固定した何とも豪華な乗り物。


 俺達は今、その中にいる。


「義経くんが真真子をもらってくれると、私としては嬉しいのだがね」

「き、菊川さん、何をいきなり!」


 俺達の傷を菊川さんが応急処置してくれている間に、禰宜さんがブラン子を呼びに行ってくれた。ブラン子の到着と同時に皆で異世界転移したのだが、いつもと違って砂漠にはズルムケカーゴなる乗り物が控えていたのだ。


 ズルムケカーゴの前には巫女見習い達も待機していた。

 彼女達は顔だけ見るとマシン子そっくりなのだが、その表情と動作はどうにも機械的だ。


 菊川さんは半年に一度、地球の『権力者』と会合するため日本に転移してくるらしい。それがたまたま、今日だったという。


 権力者の詳細については興味がないので聞かなかったが、地球人の祖先がテルースからきた異世界人だというのなら相応の権力を持った人達なのだろう。


「定時報告。スレスレーダーに表示された目標地点到達まであと十キロです」


 カーゴの屋根に立ち、ズルムケガラス達を操っている巫女見習いの声が伝声管から響いた。彼女の名前は確かカデン子。ブラン子と同じ戦闘型の巫女見習いだがタイプとしては旧型らしく、その能力は遠距離攻撃に特化しているらしい。


「そろそろか。義経くんと広島くん、これを装備しておきたまえ」


 菊川さんから渡されたのは掌から肘までをすっぽりカバーする、ガントレットタイプの篭手。


「これは?」

「ドラゴンフィストといってね。内側のボタンを押しながら物を殴ると、とても爽快なんだ。君達は拳法家だから剣よりこれの方が良いと思ってね」


「因みに爽快って、どの程度爽快なんですか?」

「うーんそうだなあ。自動塊くらいの質量なら爆散する程度には爽快だよ」


 それ、俺達が持ったら駄目な感じのやつじゃん!

 この親父、何を考えてるんだ。


「おおお! ついに無双武器ゲットだぜ! ここから俺の英雄譚サーガが始まるんだな……」


 良かったな広島。お前、異世界大好きだもんな。


「広島、さっきは悪かったな。ついカッとなって」

「気にするな義経。俺だってメグさんが連れ去られたら同じように――」


「どうした?」

「め、めぐめぐめぐ! めぐめぐぅ」


 また発作が出たか。元々メグさんに会う予定だったからな。

 広島にしてみれば、お預けを食らった形なのに今までよく我慢していたものだ。


 単純だから忘れていただけかもしれないが……。


 マシン子奪還が終わったら真っ先にメグさんの所へ案内するからな、親友!

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