5章6話 苦闘

 敵の攻撃を掻い潜り、膵臓のある横腹辺りに裏拳を一発。


「グギャッ!」と叫んで相手が体勢を崩した所にもう一発。

 今度は顔面に。


 一号は鼻血を流しながらも、俺に短槍を突き出してくるが目に見えて動きが鈍っている。もう一押しか。


 短槍を紙一重で躱し、 一号の懐に入りざま左手をロックして鳩尾に一発、二発。

 前のめりになった相手の延髄に肘鉄。

 肘鉄の勢いで更に下がった頭の先には俺の膝。


「グボギャァッ」


 そのまま蹴り上げ、首に狙いを定めた渾身の回し蹴りを叩き込み――


 一号が霧散した。何なんだこいつら。

 トドメを入れようとすると消えやがって!


 こいつらを倒すことはできないのか?


 まあでも一時的にでも、数が減るのは願ったり叶ったりだ。

 このまま減らして行けばきっと勝てる!


 ドスッ――


 勝利のビジョンを想像させてくれる気はないらしく、控えていたケイブリンの放った短槍が俺の右太腿をかすめて地面に突き刺さった。


 ズボンが破れ右太腿から血の流れ出る感触。

 ドクドクと鼓動が聞こえ、傷がやや深いことを知覚する。


 俺は急いで後方に飛び距離を取る。

 やっと倒したと思ったら新しいのが増えやがって!


 先程消えた一号、二号のことも気にかかる。

 いつまた現れて奇襲をしかけてこないとも限らない。


 早急にこいつを片づけないとな。


 新たに対峙したケイブリンは、慎重に俺の出方を探っている。

 いや、投げ槍がないから攻撃しあぐねているのか。


 俺が得意とする拳法は攻撃をカウンターする技が多い。

 攻めてもらった方がやり易いんだけどな。


 相手を見据えながら地面に刺さっている短槍にゆっくり手を伸ばす。

 引き抜いたそれを無造作に振りながら相手の出方を待ち、同時に周囲へと目を配る。


 広島と対峙するケイブリンは二人。

 その後方に槍を構えた奴が一人控えていて、攻撃の隙を伺っている。


 コンビネーションプレイで攻めてくるケイブリン二人を上手く捌いてはいるが、その不摂生を体現した体格が災いして相手の攻撃を完璧に躱しきれてはいない。


 マシン子は木刀を使いながらケイブリン達を牽制しているが、傍目にも解る素人剣術と体術なので劣勢を強いられている。


 ただ彼女の場合は人並み外れた再生能力があるので、上着やスカートはかなりボロボロになっているが、そこから覗く肌には一滴の血も付着していない。


 ん?

 マシン子と対峙するケイブリンの後ろにだけ、ヘルプが五人もいるのは偶然か?

 武器を持っているので一番厄介だと思われたか?

 だとすれば拙いな。


 彼女の再生能力は人並み外れているが、それは体力とは関係のないもの。多人数を相手取っている現状、俺達の中で最も体力を消耗しているのは彼女のはずだ。


 あ、よろけた。

 ヤバい、避けろ!


 ドスッ――


「うがっ!」


 俺は痛みの原因に目を落とす。

 左太腿から生えた短槍。

 その穂先からは血が滴り落ちている……俺の、血か。


 マシン子のピンチに気を取られすぎ、後方から近づいてきたケイブリンの存在を知覚できなかった。


「義経っ!」


 傷を負うのも厭わず、全体重をかけたタックルを対峙していた相手にぶつける広島。吹っ飛んだ相手を追わず、横にいたコンビの片割れに掌底。


「ゲブ……」


 体格差の違う相手から繰り出された掌底に、片割れのケイブリンは尻もちをつき苦悶の表情を浮かべる。


「大丈夫か義経!」

「厳しいな。足をやられちまった」


 俺の援護に来てくれた広島に、思わず弱音を吐く。


 俺と広島とでは明らかに俺の方が強いと思っていたが、実戦だとそうでもなさそうだ。こいつは思い切りに欠けるから今まで防戦一方だったが、攻撃に転じた時の一撃は重い。インターハイ連覇は伊達じゃないってことか。


 ――っと、豚のポテンシャルを再確認している暇はない。

 マシン子はどうなった!


「ちょっと放しなさいよ! 呪術かけるわよ! もっとハゲ散らかすわよ」


 五、六人のケイブリンに担がれたマシン子が喚き散らしている。

 既に毛根が消滅している相手にもっとハゲ散らかすとか、かなり怖いぞその呪術。


「マシン子!」

「義経っ、助けて!」


「うぐっ……」


 拘束され連れ去られて行くマシン子を追おうと踏み出すも、太腿の痛みからバランスを崩して片膝をついてしまった。


「義経っ、義経っ!」

「マシン子! 今行く……ぐぁっ」


 漫画だと痛みを噛み殺し、気力を振り絞ってヒロインの元へ駆けつけられるのに!


「義経っ、助けて義経!」

「義経、無理だ! 一旦引こう!」

「黙れ! マシン子が連れ去られる!」


 マシン子を担ぎ上げたケイブリン達は、歪んだ口元に薄ら笑いを浮かべながら早足で遠ざかって行く。俺と広島が対峙していたケイブリン達は、同時にこちらへと攻撃を定めている。


「グギャァァッ!」

「義経っ、義経ェェェ!」


 俺の眼前に穂先が迫ったのと、マシン子の叫びが聞こえたのと、広島が簡易鳥居を振りかざしたのが同時だった。

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