ドラゴライト

5章5話 龍虎？ 並び立つ

　自動塊から出た俺はすぐに乱戦を悟る。

　ケイブリン達は対話する気など更々ないようで、俺達を視界に捉えると迷うことなく襲ってきた。

　しかも複数で。

　伸びてくる短槍を手の甲で払い、半歩後ろに下がる。

　次の瞬間には元いた位置に突き出されるであろう、別の短槍を警戒しての行動だ。

「グギャギャッ」

　シュッ――

　案の定、半歩前に穂先が突き出される。

「グギャ！　グゲグギャァー」

「チッ、何いってるのか解んねーよっ、と！」

　素手対短槍。リーチの差が厳しい。

　しかも相手にするのは複数なので、一歩間違えれば怪我では済まない。

　横目で確認すると、マシン子と広島の方へも二人がかりのケイブリンが攻撃を繰り出している。

　こいつら戦い慣れしてやがる。

　それもコンビネーションでの戦いに。

　二人一組で獲物を追い詰め、それが叶わなかった場合は後方に控えている別のケイブリンがヘルプに入る段取りなのだろう。

「グギャギャ！」

「解んねーっていってんだろ！　クソ野郎」

　二方向から同時に突き出された短槍を紙一重で躱した俺は、未だ伸び切っていない槍身へと手を這わしてガッチリ掴む。

　相手の突く力を利用してそのまま槍身を引き、つんのめりそうになったケイブリンの方へ身体を進ませる。

「ゲッ、グガッ、グギャ！」

　鳩尾に突きを一発、二発、三発目は掌底。

　手加減する余裕はない。

　急所だけを狙って攻撃し続けなければ、この数を捌ききれない。

「おらおら、一号が倒れたぞ！　お前らの技はこんなモンか」

　理解してないだろうと思いつつ、煽りの台詞を吐いて自分を鼓舞する。

　口からツバを飛ばして尻もちをつくケイブリン一号。

　僅かな間、コンビネーションが崩れて俺の相手はケイブリン二号だけになる。

　この間に有利な展開へと持っていきたいところ。

　シュッ――

　ケイブリン二号が繰り出した短槍突きのタイミングを逸し、槍身の下に潜らせた左手で跳ね上げる。短槍はリーチや取り回しの良さで優秀な武器だが、超近接戦においての扱いに欠点がある。そして俺の得意とするのは超近接戦。

　武器のリーチのそのまた内側へ入り込んでしまえばこっちのもの。

「グギッ！　ゲッ！　ガァッ！　ゴ――」

　ケイブリン二号に密着し、膝蹴りで股間に一発。

　次いで頭を固定し喉仏に一発、更に二発。

　最後は喉仏を掴んでそのまま捻り上げ――

　急所攻撃の連打が決まり確実に落とせたと思った刹那、ケイブリン二号の姿が霧散した。

「なんだ？　魔法か何かか」

「グゲッ！」

　深く考える暇もなく、復活したケイブリン一号の攻撃が届く。

　霧散した二号に気を取られて躱すのが遅れ、突き出された穂先を咄嗟に手の甲でガード。

「ぐっ」

　穂先は手の甲に突き刺さりはしたが貫通せず、俺はワンテンポ遅れてその場から飛び退く。マシン子オリジナルにかけられていた呪術、風の護りが微妙な仕事をしてくれたようだ。

　微妙だけど、ありがとう。

　貫通せずに済んだよ、ありがとう。

　完全ガードして欲しかったけど、ありがとう。

「ぐはっ」

　手の甲から穂先が抜ける痛みに堪えながら、次の攻撃に備えて構え直す。

「大丈夫か義経！」

「大丈夫に決まってるだろ。俺に気を取られるな！」

　いつの間にか広島が戦っている空間へ近づいていたようだ。

　それとも広島が近づいてきたのか。

　広島はあの往年の名作映画でサモハンが魅せた、シュシュシュシュッと身体の前で意味不明な手の動きを実践して敵を威圧しているが、所々服は破れて血が滲んでいる。

　こいつの場合、的が大きすぎるから相手もさぞ攻撃し易かったことだろう。

　俺もシュシュシュシュっと映画でジャッキーがしていたように手を動かし、広島の斜め横に移動する。

　今ここに龍虎並び立つ！

　映画のワンシーンを再現して気の済んだ俺は、再びケイブリン一号に向かって距離を詰める。

　後ろで広島が『え、共闘しないの？　する流れだよね？』とかいってるが、もう少し一人で持ちこたえてくれ。こっちもこっちで手一杯なんだ。