5章4話 やるしかない
砂漠とそうでない土地との境界がどんな物なのかはしらないが、ここテルースでの境界はハッキリとしている。
砂しかない場所と雑草の繁っている場所が明確に分れているからだ。
なぜこんなにも線を引いたように分かれているのかは環境学者じゃないので解らないし、そのことに興味もない。
でもさ、それでもさ。
砂漠が終わった途端に生物がいて、その生物が強襲してくるって極端すぎるだろ異世界!
バスッ、バスッ、バスッ――
前方から放たれた投槍が自動塊の表面に突き刺さる。
「義経っ左、もっと左!」
「いや右だよ、右!」
「あーもう面倒臭い! 何なんだよこいつら」
右に避けても左に避けても関係なくブスブスと刺さり続ける投槍に、俺は発狂寸前だった。
自動塊の表面は地球製自動車と違って弾力がある。
衝突時の安全性は高いだろうが、今現在陥っているような事態に対しては考慮されていないと思える。地球でも矢や槍が降ってくる事態を想定して自動車を造ってはいないけどな。
何十本目かの投槍が自動塊に刺さったと同時、運転制御が効かなくなり失速を余儀なくされた。
「まずいな、自動塊が壊れたらしい」
「マジで!? ヤバイぞ義経、殺されちゃう」
「広島くん慌てないで。こういう時こそ冷静に――って停まっちゃったじゃない! どうするのよ義経! ねえ、義経ってば」
どうにもならねぇよ。
それよりマシン子、お前の性格ってそんなだったか? それともそれが地なのか?
まあ俺はどちらのお前も好きだけどな。
無音で停まってしまった自動塊。
俺にはこの半生物的な不思議装置を直すことなんてできない。
広島を投げ捨てて重量を減らせば何とかなるような感じでもない。
これは……、覚悟を決めるしかないか。
自動塊の前方モニターに複数の人影が映し出された。
皆一様に水色の肌をしていて頭髪がない。
手には短槍と小盾を構えながら、こちらへと近づいてくる。
「ケイブリンね……」
「ヤバい相手なのか?」
「そうね、好戦的な蛮族よ」
「なら大丈夫だな。肉体言語で通じ合えそうだ」
「大丈夫じゃない未来しか見えないよっ!」
数は四、五……六人。
隠れている奴の可能性も考慮して、十人以上と思っていた方がいいな。
「マシン子、木刀はあるか?」
「今回は一本しか持ってきてないわ」
「俺に使わせて!」
「ならそれはマシン子が使ってくれ」
「でもそれじゃあ、義経と広島くんは……」
「俺も武器が欲すぃ」
「俺達は素手の方が強いんだよ。あんな奴ら屁でもないぜ」
「じゃあ私がピンチの時はよろしくね」
「俺達って俺も含まれてる? 含まれてないよね?」
「任せとけ。お前は俺が護ってみせる」
「アハハ、期待してるわよ私の騎士様」
「やる気なの? まあやらないとやられる未来しか見えないし……ええい、これでも少林寺拳法インターハイ連覇実績のある男、やってやるっ」
その通りだ広島。
問答無用で攻撃を仕掛けてきた相手と交渉できるのは漫画の世界だけだ。
ここは異世界。平和ボケは通じない。
「義経、広島くん、これを一応着けておいて」
マシン子が荷物からジャラジャラ出してきたのは沢山の指輪。かなり洗練されたデザインと完成度の高さから、彼女渾身の作品なのが見て取れる。
「全ての指輪に呪術をかけてあるわ。これが治癒力強化と幸運強化。こっちが目印と風の護り。風の護りは風の障壁を張ってダメージを少し緩和できるの」
「おお、異世界っぽい! 凄いよマシン子さん」
確かに凄い。
こんな御都合アイテムがあるなら、結構善戦できるんじゃないか?
「でも強化系と風の護りの効果範囲は装着部から五センチだから過剰な期待は禁物よ」
五センチって……。
指先だけ幸運アップって何の意味があるんだよ!
どこに過剰な期待を抱ける隙があるんだよ!
――と、思っている間にもケイブリン達との距離は縮まっている。
狙われる理由に心当たりはないが、話し合いが通じる相手でもなさそうだ。
「出るぞ広島! マシン子!」
「おう!」
「ええ!」
指輪の効果はお守り程度だがやるしかない。
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