5章2話 行こう!
「おはよ……」
その日、出勤してきた広島の顔は沈んでいた。
身体からどんよりとしたオーラが出ている気もする。
「どうした広島、大丈夫か?」
「まあ、動けるくらいにはね……」
広島はバイトだが、今やアクセサリーショップ・ロックレンジャーになくてはならない人材となりつつある。
現在サイトでの販売は在庫切れのため一旦止めている。
その間にプログラムを手直ししようと昨日の帰りに話し合ったばかり。
もちろん、プログラム担当は広島だ。
しかしその広島がこの状態では、仕事をさせるのが
仕事なのにそんな甘えはいらないだろ?
と思う人もいるだろうが、俺は仕事だからこそ誰もが気持ちよく働いて当然だと思っている。俺だけじゃなく代表のマシン子も同じ思いだ。
体調が悪い時に働いたって、良いことなんて一つもない。
ブラックな世の流れとは逆行しているだろうが、作業よりそれをする人間の方が大事だと俺は思う。仲間が調子悪そうにしていたら、仕事なんて後回しだ。
「どうしたのよ広島くん。何があったの?」
「実は昨日、メグミと再会してね……」
「ああ、もう一回アタックするとかいってたな」
「メグミは新しい彼氏と一緒に来てね。玉砕……いや、当たってすらいなかったよ……」
「それは辛いな……」
「察するわ……」
「コントロールの問題でしょうか」
うん、違うからね。
「俺、死ぬ時は食いながら死にたいなぁ……」
「広島、落ち込むな! 新しい恋を探そうぜ」
「そうよ! 終わった恋は忘れるべきよ」
「過食で死亡するケースはかなり多いとネットに書いてありました」
ブラン子、悪気のない言葉で煽るのは止めてあげてね。
「俺にはメグミだけがいて、メグミしかいなかったのに……」
「哲学者かよ! らしくないぞ広島」
「そういえばメグさんを紹介するって話はどうなったの?」
クワッ!
メグサンの名前が出た途端、広島の落ち窪んでいた目が見開かれ、そこに炎が灯った。単純な奴で本当に良かったよ。
「よ、義経、いや義経さん! め、めぐめぐめぐ――」
「落ち着け」
正直な所、あのメグさんと広島を会わせても恋には進展しないと思うが、このままだと広島から出る負のオーラで室内が満たされてしまう。
ただでさえデブの周囲は空気が薄いのにそれは非常に困る。
(※個人の感想です)
「解った、行こう!」
「義経様あああっ! ありがたやありがたや」
「今日は仕事中止。それで良いかマシン子?」
「もちろんよ。私も気分転換がしたいと思っていたの」
「お待ち下さい、義経様」
「どうしたブラン子?」
「現在商品販売は停止しておりますが、既に受けた注文において発送日が明日、明後日、明々後日の物がございます。そしてその商品は在庫がありませんのでマシン子姉様に作っていただかねばなりません」
「ぐ……、そうだったわ」
「めぐめぐめぐ……」
ああもうっ!
フリーターの時はこういうのがなかったのに。
店をやるってことは店に縛られるってことなのか。
すぐにでも広島を連れて行ってやりたいのに……。
「マシン子姉様は今日中に残りの全商品を作れる作業能力をお持ちですよね?」
「や、やれないことはないわね」
「愚見を申しますと、商品さえ用意していただければ私が梱包して発送しておきます。それなら明日には皆様で向こうへ行けるかと」
「それだとブラン子が一緒に行けないじゃないか」
「私なら問題ありません。梱包のお仕事に興味を抱いております」
「そうなのか?」
「興味を? 貴女、何だか変わったわね」
「めぐーめぐーめぐー」
「
ブラン子がそうしてくれるのなら、ありがたい。
俺達の中で一番強いブラン子の不在は少し心許ないが、マシン子が大量のワカメを持って行かない限り多分危険はないだろうしな。
「じゃあ頼まれてくれるか、ブラン子」
「そのように」
そうそう、広島にも翻訳機を装着してやらないといけないな。
もう一個マシン子に出してもらうとするか――って。
「マシン子は出かけようとするな!」
「でもワカメを買わなくちゃいけないし……」
「ワカメは明日で良い。頑張って商品を作ってくれ」
さり気なく仕事を放棄して出て行こうとするマシン子。
お前は俺よりフリーダムだなっ。
もっと自分が社長だという自覚を持とうぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます