幕間 闇妖精の王女

みなぎるる、漲るぞぉぉぉ!」


 クアーッ


 プチッ。『スレスレコエテルジャネーカー』


 インレ=ウィレ遺跡第九区画。

 僅かな龍石の残痕を辿り数時間かけて辿り着いたこの場所で、僕は狂喜乱舞した。


 あまり大きな反応ではないが、確かに龍石の波動を感じる。

 地上に戻らずこの遺跡区画にきたのは正解だったようだ。


「己の中にある龍の魂が喜びに打ち震えているっ! レッツ龍神・ダーンス」


 この興奮を冷ますには龍神ダンスで少し身体を動かすしかない。

 己の中にある龍の魂に身を任せて僕は踊った、踊り狂った。


 アクロバッティングなダンス技の数々を繰り出し続け、三点ブリッジをした時にその異変を感じた。


 何かの気配が急速に大きくなり、警戒態勢を取る暇もなく僕の僕側の前に全裸女性が現れたのだ。


「グ、グガッ!」


 全裸の男と全裸の女。

 この閉鎖的な地下空間において、そんな二人が出会う確率は如何程いかほどのものだろうか。


 僕は僕の僕側に立ち、僕の僕と僕を交互に見つめているその女性に運命的な何かを感じずにはいられなかった。


 水色の肌に引き締まった身体。

 熟練の家政婦が磨き上げた鏡のように光り輝く無毛の頭皮。

 額に純白の一本角が生えていることから察するに、ケイブリンの王族だろう。


 僕は三点ブリッジから立ち上がり、彼女に声をかけてみる。


「初めましてお嬢さん。おや、腹部に怪我をしているね。頭部は怪我なくて良かったね」

「グガ、グガガ……」


 そういえば言葉が通じないのだった。

 愛は言葉の壁を越えると思ったのに駄目だったか。

 まあ出会ったばかりで愛とかあったら逆に怖いけどね。


 しかし僕はこれでも全てにおいて抜かりのない男。

 いつ何があっても対応できるだけの物資は常時持ち歩いている。

 例えばこれ、翻訳機とかね。


「ちょっとだけチクッとするよ。大丈夫、先っぽが入れば後は慣れだから、ね」


 母譲りの身体能力で彼女を押し倒しつつ、素早く耳の後ろに翻訳機を取りつけた。


「グ……グガガ!」


 何だろう。クッ、殺せ!

 といわれている気がしてならない。

 僕は善意しか持ち合わせていないというのに。


 やがて肉体と翻訳機が同調したことを知らせるメッセージが脳裏に届いた。

 これで意思疎通もバッチリだね。


「――ってしまうなんて! お父様お母様、先立つ不幸をお許し下さい」

「確かに先は立っているけれど、それは不幸ではなく喜びなのさ。君も僕と共に踊ろうじゃないか」


「言葉が! これが科学の力……」

「興味が出たのなら後で詳しく説明してあげるよ。裸族のよしみでね」


『そ、そうだったわ。転移させられたら目の前にアナコンダがいて気が動転していたらいきなりアナコンダ本体に押し倒されて状況把握が遅れたけど、今の私は全裸だった』

「うん、詳しい解説ありがとう」


「クッ、好きにすれば良いでしょ。どうせ抵抗なんてできないんだから」

「何か君は勘違いをしているよ。僕は君に対して不埒な真似は一切したい、いや、しないと約束しよう。」


「……」

「ちょっと本音が混じっちゃたね。僕は誤朗。ロック・レンジャーの陸奥誤朗むつごろう。良かったら君の名前を教えて欲しいな」


『ロック・レンジャーのゴロウ? 我らケイブリン族にまで名が轟いている人間の英雄じゃない! その英雄がケイブリンの習わしで求婚を示す金色こんじきの頭飾りを着けて目の前に立っている。一体どういうことなの?』

「うん、詳しい心境をありがとう」


 全ての状況を念話で詳細に説明するパワータイプのやり口に心から感心した。

 それと僕は英雄ではなくただの鉱石採集人なのだけどね。

 世界を巡っている内に尾ひれがついたのかな。


「それからこれは頭飾りじゃないよ。地肌から生えてるタイプのやつだからね」


 なんて冗談をいってる場合でもないか。

 僕はカツラを取って、ありのままの自分を彼女に晒す。


 お互い全裸で、しかも好きでハゲている者同士。いや同志。

 ありのままを見せ合うからこそ生まれる物もきっとある!


 子供とかね~。


「私はシーテ。ケイブリン王国の第一王女、ダマ・シーテよ」


 勝ち気な瞳で僕を睨む彼女。

 全裸で腰に手を当て堂々と名乗りを上げるその姿に、僕と僕の僕は柄にもなくときめいてしまった。


 プチッ。『シモネタジャネーカヨー』


 おっ、新しいバージョン発見。今日は何かと僥倖だ。

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