幕間 弐

幕間 トップ・ロックレンジャー

「行っちゃったか」


 義経くん達が簡易鳥居を振って立ち去った後、僕は全裸になってから片付けを始めた。


 プチッ。『スレスレネタハヤメロッテー』


 別れ際、異界巫女がくれた音声内蔵の人形型キーホルダー。

 軽く指で押すと録音された台詞が再生されるようだ。


 プチッ。『スレスレジャネーカー』


 ほう、押す度に台詞が変わるのか。

 何パターンあるのだろう。


 プチッ。『スレスレヤナイカーイ』


 面白いね。

 でも遊んでばかりもいられない。

 さっさとテントを畳んで移動しなければ。


 この周辺で採取できる龍石は採取し尽した。

 場所を変えて探してみるつもりだが、僕の勘ではこの区画以上の成果は期待できないだろう。


 遠き昔、一夜にして滅亡した機人国インレ=ウィレ。

 現代の科学力を大きく凌駕した機械文明を持ち、生命さえ意のままに操ったとされる伝説の種族も今や神話となり、その存在した証が唯一残されているのはこの遺跡区画のみ。広さはざっと五十平方キロメートル。


 国喰いから発せられた瘴気の影響で、ここにも上の砂漠にも生き物はいない。

 そんな場所でまさか同業者と出会うとは思わなかった。


 それも多分、僕より数段格上のロック・レンジャーと。


 ロック・レンジャーと呼ばれる特殊職に就けるのは、先天性龍眼の保有者であるのが最低条件で、そうでなければ龍石を見つけられない。


 僕の家は龍神様を信仰する家系で、寝物語によくこんな話を父から聞いたものだ。


『この星の中心には悠久の時を眠る龍神様がおって、その身体は常に崩壊と再生を繰り返しておるのじゃ。稀に崩壊した身体の一部が火山から放出され、その希薄な魂が物に宿った姿を龍石と呼ぶのじゃ』


 龍石というのは厄介な鉱石で、その形や大きさ、そして見た目に決まった規格が存在しない。ただの石ころの場合もあるし、金や銀、アメジストやトパーズのような鉱石の場合もある。要するに、龍神様の一部が物に宿ればそれが龍石となる。そして何かの拍子で生物に宿ると、国喰いのような変異種になるのだ。


 変異種はいずれ崩壊して塵になるが、なぜか龍石の残痕は残る。

 先天性龍眼保有者にはその残痕が見えるのだ。


 いい換えれば残痕しか見えない。


 残痕の近くには形を保った龍石が存在する場合が多く、彷徨う残痕は形を保った龍石へと吸い寄せられて行く。その流れが見えるからこそ、ロック・レンジャーは龍石を発見できるのだが……。


 僕の母は人工生命体だったらしい。

 らしいというのは母の記憶がないからだ。


 記憶はないが、僕は父にも母にも平等に感謝している。

 父が龍眼持ち、母が龍石によって生を受けた人工生命体だったおかげで、僕には生まれつき特殊な能力が備わっていたのだから。


 先天性龍眼は父からの遺伝。

 龍石の波動を感じる能力と、人を凌駕する再生能力は母からの遺伝だ。


 波動を感じるには体全体で感じる必要があり、全裸にならなければいけないが。

 それはそれで恥辱心を刺激されてとても気持ちの良い開放感を満喫できる。


 波動を感じられるのは能力を持っている僕ですら一瞬のことで、しかしその一瞬の差が僕を他のロック・レンジャーよりも優位に立たせてくれていた。


『石と語る者』なんて渾名で呼ばれる程に。


 でも彼、義経くんはそんな僕の能力を遥かに超えている。

 今まで名前をしらなかったのが不思議なくらいだ。


 彼は『常に』見えているのだ。

 残痕だけではなく波動も。


 そして僕には見えない『他の何か』も。


 あのドーム型建造物を見つめていた義経くんの眼差し。

 それを見た時、ゾクッとした。


 そして確信した。

 彼は僕を軽く超えている、トップ・ロックレンジャーなのだと。


 また会ってみたい。

 次に彼と会うのがとても楽しみだ。


 その時はきっと僕も仲間……。


「飛鳥、蘭、行こう。ここもじき砂に飲まれる」


 飲まれないけどね。


 プチッ。『スレスレスギルワー』

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