4章12話 開かずのドーム

「それはそうと砂漠の薔薇は無事なのか?」


 俺達がここへ落とされる原因となった鉱石、砂漠の薔薇。

 元々はそれを見つけるのが目的だった。


 目的は達成したが、あの高さから落ちて荷物が無事かどうかは気になるところ。


「半分は無事って感じね。もう半分は砕けたり欠けたりしてるわ」

「ごめん、俺が集めた物は全滅だよ。落ちた時にリュックが下敷きになったみたいで」


 それが衝撃を吸収して広島が助かったと思えば安いものだ。


「じゃあ一旦簡易鳥居で帰るのも手だが、俺としては――」

「探検したいんでしょ?」

「冒険したいよな?」


 よく解ってるじゃないか!


「帰るのはいつでもできるからな。その前にここを見て回ろうぜ!」

「そうね!」

「冒険者の血が騒ぐぜ」


 お前、いつからそんな職業になったんだ?


「じゃあ軽く探検しよう。あまり時間をかけるとブラン子も待ちぼうけになるしな」

「ブラン子のことを忘れていたわ」

「俺は覚えていたよ。ちっちゃい女の子のことは忘れない体質なんだ」


 広島、それ以上いうな。

 デブが特殊性癖なのは周知の事実だが、おおやけに宣言して良い物じゃない。

(※個人の感想です)


「よし、行こう」


 古代機人国の建物は地球のビルと似ていて、無機質な表面に窓だろうと伺える透明な物質が幾つもはめ込まれている。


 遺跡群の殆どは倒壊していたが、一棟だけほぼ無傷で残っている建物があった。

 周囲の建物が高かったせいで、幸運にも国喰いの圧し潰しから守られたのか。


「この綺麗な建物を探索してみましょうよ」

「そうだな、他の建物は倒壊して危険そうだしな」

「ボスがいるかも知れないから要注意だね!」


 広島、お前一人だけ違うゲームしてるだろ。


 ドーム型の外観をしたその建物は、どこか教会や神社のように厳かな雰囲気があった。

 十字架も鳥居も、地球っぽい宗教的な装飾は一切施されていないが、なぜかそう思わずにはいられない。


 周囲の建物が倒壊している中、この建物だけが無傷という事実がそう思わせているだけかもしれないが。


 それに……。

 龍石の残痕に似た何かが建物を包んでいるように見える。

 砂なんかと比べ物にならない程の赤さで。


「駄目だな、扉が固くて開かない」

「裏口もなかったわ」

「窓も頑丈で割れなかったよ。磨りガラスだから中も見えないし」

「壁も破壊出来ないしねえ」


「何かお宝がありそうなのにな」

「いかにもって感じよね」

「もう少しレベルを上げないと開かないのかな」

「龍石の波動を感じるのだけれどねえ」


「ゴロウさん、いつの間に! って、ゴロウさん?」


 いつの間にか加わっていたゴロウさんは、しかし俺のしっている変態ではなく、あろうことか服を着ていた。


 カーキ色をしたポケット盛りだくさんのミリタリーウェアに、釣り人が好んで着るようなこれまたポケット多めのベスト。足元は黒いエンジニアブーツでキメていて一片の変態要素もない。


 そして最も驚いたのは、ハゲていたはずの頭から金髪が生えていることだ。

 しかも腰まで届くサラサラストレートヘアーが。


 もうこんなの、俺のゴロウさんじゃない!


「ロック・レンジャーのゴロウさんですか! あ、握手お願いします」


 マシン子があたふたしながら右手を差し出し、ゴロウさんがそれを軽く握る。

 握手会で憧れのアイドルを前にした少女みたいになってるな。


「やあ、初めまして異界巫女。意識が戻ったようで何よりだよ」

「俺も感謝しています。助けて頂いて有難うございました」


「やあ、初めましてぽっちゃりさん。肉汁が止まったみたいで良かったよ」

「流血っていってやれよ! それより、アンタ裸族じゃなかったのか」


「おやおやご挨拶だね。変態じゃあるまいし裸で出歩くわけないじゃないか」

「じゃその被ってる金髪は何なんだよ」


「被ってるとかズレてるという言葉は無粋だね。僕は被ってなんかいないしこれは地肌から生えている友達だよ」

「でもアンタ確かスキンヘッドで――」


 そう言って髪の毛に触ろうとすると、音速ではたき落とされた。


「触るなっ! ……いや、ほら僕は潔癖でね。他人との接触が苦手なんだ。別にズレるからとかそんな理由では断じてないよ」

「アンタ俺にめっさ人工呼吸してただろ! しかも好きでハゲてるっていってただろ!」


「それはそうとこのドームはどうやっても傷付けられないよ。僕も以前色々試したのだけれど駄目だった」


 さらっと話題を変えやがったな。


「何か重要な施設なのでしょうか?」

「やっぱりレベルが足りてないんじゃ?」

「僕にも解らないよ。ただ解るのは」

「解るのは?」


「この中から物凄い龍石の波動を感じる、ということだけさ」


 この世界にとって重要な物質である龍石。

 その波動を感じ取れるゴロウさんが物凄いとまでいうのだから、何かしら重要な建物であるのは間違いなさそうだ。


 しかし現状、中には入れないし何があるのか確かめる術はない。

 ゲームじゃあるまいしレベルの問題であることだけは絶対にないと断言できるが、入る方法が見つからないのだから諦めるしかなさそうだ。


 ――諦めるしかないが、こういう物を見つけてしまうと俺の中の冒険心がムクムクと頭をもたげてくる。


 今は無理でもいつか必ず、ってな。






 ~ 四章 了 ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る