4章11話 古代機人
流砂に巻き込まれた時は死を覚悟した。
でもまたこうして会話できているのだから俺達は本当に幸運だ。
本来ならこの時点で簡易鳥居を使って異世界からおさらばするべきなのだろう。
でも俺はそんな当然の判断を実行できずにいた。
大昔に起こった天災ともいうべき国喰いの上陸。
それによって滅びた国の一部が目の前にある。
古代機人とは、どんな種族だったのだろう。
どんな文明を築き、どんな文化を持っていたのだろう。
建物の多くは倒壊し、見るからに荒んだ価値のなさそうな場所だ。
しかしこの世界における歴史の一端を垣間見ている現状と、この場所には何か謎めいた物があるのでは、という冒険心が俺をこの場に留めていた。
「なあ、古代機人ってどんな人達だったんだ?」
「地球の機械文明のその先に到達していた種族、といわれているわ」
「何だって! 戦艦型少女や戦闘機型可変少女のことなのか」
俺はスッと息を吸い込み、丹田に気を溜めてから広島の鳩尾に突きを放った。
「ムホッ……」
少女限定は止めろ。そして少し静かにしてろ。
「携帯ハングライダーや翻訳機は元々古代機人の技術で、それを日元人が掘り起こして再生したものよ」
「日元の科学力なら自前で作れそうだけどな」
「そうでもないわ。生体細胞を弄る技術に特化した日元教国では、転移鳥居や簡易鳥居みたいな物は作れても精神や脳に直接影響する物は作れない。アイテムを小型化する技術も乏しいの」
無機物と生体細胞を融合させるような技術は進んでいても、無機物そのものをどうにかする技術は進んでないのか。俺がこの世界に来て感じていたチグハグな感じはこれだったんだな。
「それと私達が
また
「例えば?」
「そうね……、もう義経はしってるだろうから話すけれど私達人工生命体――」
「マシン子さんって人間じゃないの? なんてファンタスティ――グホッ」
今更かよ、ブラン子なんて飛んでただろ。
「ピクピクしてるわよ? 良いのかしら……」
「大丈夫さ。美人の話は黙って聞くもの、だろ?」
「もう、義経ったら! おだてても何も出ないわよ」
「フフッ、俺はもうたくさんもらってるけどな」
「……お前ら……爆発しちまえ」
マシン子なら戯けた台詞を返してくると思ったが、意外にも照れている。
ほんのりピンクになった頬が色っぽい。
「は、話を戻すけれど人工生命体の核ともいうべき物質が龍石。私達はほんの僅かな量の龍石を埋め込まれて初めて、多細胞生物らしく呼吸を開始するの」
「万能細胞的な物で作られたパーツを組み上げたら、生命活動を開始できるのかと思ってたぜ」
「生き物はモーターで動くプラモデルじゃないわ。幾らパーツが揃っていても心がないと活動できないものよ」
「その心が龍石なのか?」
「正確には龍石に宿っている龍と呼ばれるエネルギー。人工生命体は各々、埋め込まれた龍石によって得手不得手や能力に差がでるの。龍が何かは私もしらないけれど、今の私の性格や行動原理は龍石に宿っていた龍の意思であるともいえるわね」
「人工生命体は龍石とやらの意思を具現化した存在なのか?」
「さあ、どうなのかしら」
古代機人の話を聞くはずが、えらく深そうな生体細胞科学の話になってしまった。
つまり龍石とは人工生命体の起動エネルギーで、その中に宿る何かが彼女達の性格を決定付けている……のか?
それなら今こうして俺と喋っている彼女は一体誰なんだ。
彼女は彼女であって彼女ではなく龍石の意思である可能性もあるがそれが心だというのならそれはやはり彼女であって……。
無理だ、俺には難しい。
「古代機人達は龍石から抽出した物質を使って永遠の命を得ることができたそうよ」
「それは日元人もだろ? やけに寿命が長いって聞いたが」
「そんなレベルじゃないの。日元の技術では寿命を千年伸ばすのが精一杯。でも古代機人達は不老不死であったと文献に書かれていたわ」
「永遠の命とか、生きるのが面倒になりそうだ」
「機械の身体だね! きっと古代機人達は機械の身体と龍石をミックスして時の歯車にしていたに違いな――グハァ」
「日元の教皇様が龍石探索専門家のロック・レンジャーと懇意にしているのは、その辺りに理由があるらしいわ」
「教皇様か。人間至上主義の嫌なイメージしかなかったけど、生にも貪欲みたいだな」
大方、龍石から永遠の命を得られる物質を取り出せないか実験を繰り返しているのだろう。地球でもそうだが、権力者が最後に行き着くのは延命だしな。
俺だって長く生きられるなら生きていたいと思う。
権力者に限らず多かれ少なかれ、誰でも思うことなのかもしれない。
でも永遠の命なんて俺にはピンとこないな。
そこそこ長寿ならそれで良いと思っている。
人は死ぬようにできているし、きっとそこにも理由があるに違いない。
それを曲げてしまうのは、どこか……歪だと感じるんだ。
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