4章10話 双頭の竜
龍石がどんな鉱石なのか確かめたい気持ちはある。
でもそれ以上に精神の危機的状況を脱するのが先決だ。
「じ、じゃあ俺はテントを見てくるから!」
ゴロウさんはすでに俺の言葉が聞こえていない様子で、『うおっほぅ』と雄叫びを上げながら波動の見えたらしい方向へと走って行った。
人となりを少しでも知っていなければただの蛮族だ。
知っていても変態の蛮族だから、あまり変わらないけどな。
「よし、行くか」
教えられた通りの道を進んで行くと、二匹の大型生物が目に止まる。
あれがペット?
それにしては妙に厳ついのだが……。
身体は地球のサイにそっくり。
しかし首が長く、しかも双頭。
大きな目に大きな嘴。
体色は一方が赤茶色でもう一方がグレー。
中国神話に出てくる玄武のイラストを以前見たが、その身体を亀からサイに代えて双頭にしたような不思議生物。
明らかに異世界特有の生物で、これを地球の言葉で表すなら双頭竜とでもいえば良いのか。
「義経! 無事だったのね」
双頭竜の影からマシン子が躍り出てきた。
「マシン子も無事で良かった! 広島は?」
「まだ寝てるわ。でも命に別状はなさそう」
「そうか、安心したよ」
「それよりここはどこなのかしら。目が覚めたらテントに寝かされていて外に出たら
この不思議生物の名前は双竜なのか。そのまんまだな。
俺はマシン子に、ゴロウさんから聞いたことをかいつまんで話した。
「ロック・レンジャーのゴロウ。鉱石界では有名だから憧れてたの。早く会いたいわ」
会うとその憧れが粉微塵になると思うが、ここにいる限り会わないという選択肢はない。マシン子、心を強く持つんだぞ。
「それにしてもこの生き物、マシン子は怖くないのか?」
「双竜はちょっとオシャレなただの乗り物よ。自動塊に風情がないと感じた違いの分かる大人が好んで使っているわ。温厚な性格だから怖くなんてないわよ、ね~
「飛鳥?」
「こっちの赤茶色をした双竜の名前よ。首輪にそう彫られてるわ」
見ると双竜の首には鉄で出来た首輪が嵌められていて、確かに何か書いてある。
俺には何が書いてあるのか解らないが、マシン子がそういうのなら飛鳥と書いてあるのだろう。
「こっちのグレーの子は
クアーッ
「アハハ、挨拶してるのね。いい子いい子。双竜飛鳥とラ――」
「マシン子止めろ、それはもうスレスレの領分を超えている!」
マシン子は少しむくれたが、みすみす過ちを犯させるわけにはいかない。
異世界怖いな!
どこにでも仕込みがあるな!
「う、う~ん、もう食べられないよ……。あれ、義経? マシン子さん?」
このタイミングで起きてくるのか。
広島、今はデブキャラが食い物の夢を見て納得してもらえる時代じゃないんだ。
もっと個性を出さなければ、デブキャラ業界で生き残れないぞ。
それよりお前は、なぜ上半身裸なんだ。
一体何をされたんだっ。
……いや、考えないでおこう。
「って、うわっ! バケモノ」
クアーッ
「面倒臭い奴だな、そのくだりはもう良いんだよ。まあ、無事で何よりだ」
「お、おう、何かゴメン。義経も無事だったんだね。それにしてもこの双頭竜っぽい生き物は……」
「この子達は双竜飛鳥とグレーの方がラン――」
「ホント止めろって! お前はワニがいるのに川遊びする子供かっ」
「え、そうりゅう? ドイツ語通じるかな?」
「おいこらデブ! 煽ってんじゃねーぞ」
「試してみる? グーテンモルゲン~」
クアーッ
「通じてるかも」
「通じてたら良いわね」
ああもう、好きなだけやってくれ。
全くコイツらときたら。
死にかけてこんな地下遺跡に迷い込んだのにポジティブだな。
ホント、二人共無事で良かったよ。
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