4章7話 赤い流砂
「こんなに砂漠の薔薇が!」
「でも砂漠の薔薇はこんなに赤くないだろう?」
「フヒィーッ、やっぱり異世界転移すると能力が覚醒するんだ!」
「普通に白いじゃない」
「白いのか……」
「俺が覚醒するのは魔法系が良いな。う~ん、楽しみだ」
広島はこの際放置しておいて、鉱石に詳しいマシン子が白いというならその通りなのだろう。そうなると俺の目が、おかしいのか?
空は青く見えるし雲は白く見える。
マシン子や広島の姿も普段通りに見える。
以前は赤く見えなかった。
今回も最初は普通の砂に見えた。
でも意識を集中すると、砂漠が何か赤っぽい物で覆われているように見えるのだ。
「ブラン子には悪いけれど、これだけあれば充分ね」
「砂漠の薔薇ってこんな感じで、砂の上にある物なのか?」
「サハラ砂漠なんかだとそうだね。オアシス跡にポツポツ点在してるイメージだよ」
てっきり砂を掘るのかと思っていたが、それなら今後も簡単に集められそうだ。
「じゃ、どんどん集めようぜ。持ちきれなくなったら一旦置きに帰ろう」
「そうね。張り切って集めましょう」
砂漠の薔薇は結晶同士がぶつからずに重なり合いながら成長した不思議な鉱石で、とても複雑で神秘的な形をしている。
「取り放題ね。こんな事ならもっと早くに来れば良かったわ」
「しかもほぼ全てが半透明の白いタイプだよ。億万長者とはいわないけど、もし売れれば一年は遊んで暮らせそうだね」
そんなにもか!
「俺のおかげだからな! 俺に一割上乗せなっ」
「お、俺もここでバイトさせてくれない?」
「アハハ! はいはい、義経さまさまね。広島くんの雇用は願ったり叶ったりだわ。WEB担当としてよろしくね」
そんな感じの呑気な会話をしながら砂漠の薔薇を集めていたのだが。
ふと、何かおかしな感覚に襲われた。
足が地に着いていないような、浮いてるような。
「なあ、何か足元がおかしくないか?」
「そう? 特におかしくないわよ」
ズズッ……
その時、足が砂に沈み込むような感覚がして――
ズザザザザァァー
「え、ちょっと何?」
「うわっ! 足が砂から抜けないっ」
「どんどん沈んで行くぞ! ここから離れるんだ」
だが足を持ち上げようとすると更に沈み込んでしまい、ここから動けない。
「これは流砂だ! この可能性を忘れていた自分が憎い」
「流砂って何だよ広島」
「オアシスの下には地下水脈があるんだ。それが枯れるとオアシスも枯れる。要するに地下には巨大な空洞が残されてる可能性が高いわけで――って、それよりこのままじゃ……」
「私達、飲み込まれるっ!」
一度動き始めた砂の流れは早く、俺達は瞬く間に下半身を飲み込まれてしまった。
這い出そうとしても次から次へと砂が襲ってきて、どうにもできない。
「俺、生きて帰れたらメグたんにもう一度告白するんだ……」
「諦めるな広島! 気持ちを強く持つんだ」
「一度で良いから、ワカメでプリンを作りたかったな……」
「マシン子、お前も諦めるな! いや、そのプリンは諦めろ! 以前俺に諦めるなって叫んだお前はどこに――」
ズザザザザァァー
為す術なく排水口へと吸われる小魚のように、俺達は一瞬で砂に飲み込まれてしまった。
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