4章6話 赤い砂漠

 腐敗の砂漠は異世界のスタート地点。

 今までそんな認識しかなかった。


 鳥居以外は何もない場所なので注意深く見渡したこともない。

 だから改めて周囲を観察した結果、やはりここも異世界なのだなと感じたわけだ。


 だって地球の砂漠はこんなに赤くはないし砂粒もこんなに細かくない。

 ここの砂は小麦粉のように細かく、まるでパウダーのようだ。


「なあマシン子。この砂漠が妙に赤いのはどうしてなんだ?」

「赤い? 私には砂色にしか見えないけれど。広島くんは?」

「俺も砂色にしか見えないよ」


 意識を集中して見なければ解らないが、それでも普通の砂よりは断然赤いと思う。

 赤っぽい何かに覆われてると表現したほうが正しいか。


 まあ、多少赤くても砂は砂だし、気にすることもないか。


「砂漠の薔薇って薔薇みたいな形だっけ?」

「そうよ。成長した結晶が重なり合って、薔薇の花弁みたいな形になるの」


「色は砂色とか白だったよな?」

「中には半透明な物もあるけれど大体はそうね」


「じゃあ、赤い花弁みたいなのは違うのか」

「ちょっと義経。さっきから赤い赤いって何いってるよ?」


「いや、向こうの方に赤い薔薇がポツポツ咲いてるからだな……」


 俺は紅い薔薇の咲いている方向を指差した。


「私には何も見えないけれど」

「もしかして、それがお前の能力なのか!」

「何だよ、いきなり。能力も何も普通にだな……」


「皆までいうな。異世界転移したことで探索系能力が義経に発現したに違いない!」

「マシン子、そうなのか? やっぱり人体改造的な何かが起こるのか」

「起こるわけないでしょ。広島くんも、そろそろ冗談は止めてよね」


「俺は本気だよ! 義経の指差した方向に行こう。そこに答えがあるはずだ」


 広島は脂肪を波立たせながら、素早く駆けて行った。


「待てよ広島!」

「広島くん、意外と素早いわね」


 普通のデブよりは動けるが、ただそれだけだ。

 インターハイで二年連続個人優勝しているが、拳法部の中では最弱だったからな。


 俺が広島を追いかけ、マシン子もそれに続く。

 ブラン子が戻ってくるまで時間はある。

 その間、何もしないよりは広島の妄想に付き合うのも面白い、かな。


 広島は急に走るのをやめたかと思うと立ち止まり、膝に手を当てて息を整えている。この程度で息が乱れるとは情けない奴だ。


「フヒィーッっぱり、フヒィーッさば、フヒィーッったんだ」

「よしよし。ブヒ語じゃなくて共通語で喋ろうな」

「凄い……こんなに」


 赤っぽい砂上に咲く、赤い薔薇。

 いや、赤い薔薇みたいな何か。


 この赤薔薇が何なのか、俺にはちっとも解らなかった。

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