4章5話 広島
♬ 鳥居を周ると景色が変わる
ゆっくり一回右回り 続いて三回逆回り
最後に目を閉じ深呼吸 ♬
瞼を開けると景色が――
「何だこれ! どうなってるんだよ」
広島を連れ、麒麟の鳥居から異世界テルースへと転移した俺達。
異世界転移初心者の広島は、わけが解らないといった風に慌てている。
「おいおい。どうも何も異世界に決まってるだろ」
「いやでも、まさかこんな……。どんなトリックなんだ?」
「疑い深い奴だな。現実を見ろよ」
「義経も最初は信じてなかったわよね?」
「まあ、そうだったな」
「異世界……、本当にこんな場所があったのか……。ふおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
何だよいきなり。
雄叫びで太っちょ仲間を呼ぼうとしてるのか?
「俺は今、猛烈に濃厚に無茶苦茶に感動しているっ!」
「そ、そうか。濃厚に感動するの意味が微妙だが何よりだ」
広島は目に嬉し涙を浮かべながら顔を紅潮させ、その大きな身体を震わせている。こんな感じの
「異世界、それは男の夢。そして浪漫! 俺はきっと異世界転移した影響で何か特別な力に目覚めたに違いない」
「そんな人体改造みたいなことになるのか?」
「ならないと思うわよ」
「魔物はどこだ! 経験値はどこだ」
「魔物がいるのか! ブラン子、戦闘態勢だ」
「そのように」
「腐敗の砂漠に生息する生物はいないわよ」
「それよりも仲間になるエルフだ! いやまてケモミミが先か? マーメイドやハーピィという線もあるな。くうぅぅぅぅっ!」
「なあ、エルフって誰だよ」
「トラックの名前かしら」
「北ヨーロッパの民間伝承に登場する架空の種族で、アルフヘイムと呼ばれる浮遊大陸に住んでいるとネットに書いてありました」
「義経! 取り敢えず冒険者ギルドへ行こ――うぐっ」
興奮しすぎておかしくなった広島が俺の手を掴もうとしたので、反射的に躱して膝蹴りを叩き込んだ。
「広島、落ち着け。目的を忘れるな」
「男の子だから興奮するのは解るけど冷静にね」
「す、すまん。現実離れした体験に、つい心のタガが緩んでしまった」
「肉体も精神も緩んでいると理解しました」
上手いぞブラン子、座布団三枚だ。
「じゃあ早速、砂漠の薔薇を探しましょう」
そういってマシン子は持ってきた荷物の中からワカメを取り出した。
「お前、何する気だよ。まさかズルムケガラスを呼ぶ気じゃないだろうな」
「こんな広大な砂漠を歩いて探すなんてナンセンスでしょ?」
「よく解らないけど、空から探すということかな?」
「そのようです」
「それなら止めた方が良い。砂漠の薔薇はオアシスが枯れた場所で見つかるんだ。しかも砂色をしている場合が多い。上空に昇ったら砂と砂漠の薔薇との区別が付かないと思う」
「うーん、それもそうね」
「なら早くワカメをしまえ。奴らがきちゃうじゃないか」
さてどうするか。
腐敗の砂漠にきたは良いものの、その先のことを考えていなかった。
「自動塊でもあればな……」
あの不思議な乗物があれば砂漠なんて楽勝だが、追われる身の俺達が日元教国に近づくことはできない。
「では山荘より取って参ります」
拠点にしていた山荘には俺の分とブラン子の分、合わせて二台の自動塊があった。
神社前に乗り捨てたのは俺の分なので、彼女の自動塊はまだあるはずだが……。
「山荘は日元教国内だぞ。大丈夫なのか?」
「空からなら問題なく」
ズルムケガラスで空から入るのか。
余計に目立つような気もするが、物事を冷静に分析するブラン子が問題ないというなら任せてみようかな。
「じゃあ頼む。神社関係者に見つかったら、すぐ逃げてくるんだぞ」
「そのように」
そういうと彼女は両腕を水平に伸ばしてスピンを始めた。
心なしか腕が先細りに伸びているように見えるのは気のせいか、それとも彼女の能力なのか。雉巫女神社の地下室でも手足の形状を変化させていた記憶が……、って何をするつもりなんだ?
回転がトップスピードに達したブラン子は周囲の砂を巻き込み、まるでつむじ風のようになって上空へと舞い上がる。
「では行って参ります」
「待てブラン子! それは目立ち過ぎ――」
「もう聞こえてないみたいね」
己の外装を飛ばして攻撃したり、身体の一部を任意で変化させたり、挙句に空まで飛べるのか。今後もし彼女が分裂したり、透明になったとしても俺は驚かないからな。
「なあ、マシン子も飛べたりするのか?」
「飛べないわよ」
「……そうか」
「何よその、がっかりした声は」
「やっぱり異世界は凄いな、義経!」
つむじ風となったブラン子を見て、広島は興奮を隠そうともしない。色々と慣れてきた俺でもビックリしたのだから、異世界初心者の広島からすれば常識を上書きされた気分だろう。
でもな広島。異世界が凄いんじゃないぞ。
ブラン子がマシン子以上にマシンなだけだからな。
いや、マシンは関係ないか。
ホント、いい加減マシンから離れろ俺の思考。
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