3章10話 義経、推して参る③

 先程より体温も上がり、徐々に身体の自由を取り戻している様子のマシン子。

 それでもなぜか身体を預けてくるので彼女の熱を感じずにはいられない。


 それに見ないようにはしているが、彼女の水着はフロントカットだけではなくバックカットも大胆に開いていて、まるでパンツの足を出す部分を力技で肩にかけたようなデザインだ。スタイルの良い彼女がそんな物騒な物を身につけている破壊力は推して知るべし。


 脈動する薄気味悪い廊下をゆっくりと歩き、ホールへと続くドアに手をかける。


「待って。何か音が聞こえるわ」

「ブラン子が戦ってくれているんだ。その戦闘音じゃないか?」


「ブラン子が?」

「結構強いんだぜ。俺に出す指示も的確でさ。頼りになるよ彼女は」


「指示? 巫女見習いが人に指示を出したの?」

「戦闘中にな。それに自ら防衛役を買って出てくれたんだ」


「信じられない……」


 まあそうだろうな。

 あの機械人形みたいなブラン子が自ら動くなんて今まで有り得なかった。

 これってブラン子にも自我が芽生え始めてるのでは?


 もしそうならマシン子だけが特別な存在ではない。

 全ての人工生命体に自我の宿る可能性があるとすれば、それはもう人工生命体なんて名称で差別して良いものじゃない。


「とにかくドアを開けるぞ」

「そうね、行きましょう」


 ドアを開けホールを覗き込んだ瞬間。

 俺の目に不自然な、いや、おかしな光景が飛び込んできた。


 倒れているフキン子とカバン子はそのままだが、それにプラスして四人程新たな巫女見習いが倒れている。ブラン子が倒したのだろう。


 それでもまだ幾人かの巫女見習いが戦闘態勢を取っていて、その後ろには護られるような形でマナティー親父の姿も見える。さすがにこの騒ぎで起きてきたらしい。


 それは良い。良くはないが良しとしよう。


 問題なのは、巫女見習い達と対峙している少女だ。


 ブカブカの巫女衣装を可愛らしく羽織り、こちらに背を向けている少女は一体何者なんだ?


「義経様、おかえりなさいませ」

「その声……、もしかしてブラン子か?」


 なんて事だ。

 ちょっと見ない間に美青年が美少女になってしまった!


「はい。現在任務を続行中です」

「そうか、ご苦労。って違う! 大丈夫なのか」


「問題ありません」

「いや、問題しか見当たらないんだが」


 一体彼女に何が起こったんだ。


 初めて見た時はマシン子のそっくりさん、即ち容姿端麗なセクシーお姉さん。

 俺が精密検査室に向かう前は腐のつく輩が吐血しそうな超イケメンお兄さん。

 そして今は大きなお友達がこぞって頬ずりしたくなるような愛くるしい少女。


 一人でそれだけの範囲をカバーするなんて、俺とは明らかに背負っている物が違う。ブラン子、恐ろしい子……。


「大丈夫よ、あれが彼女の本体だから。普段は武装肉襦袢ぶそうにくじゅばんで全身を覆っているの」

「じゃあ飛ばしていた肉塊は身を削っていたわけじゃないのか」

「その通りです」


 少しホッとしたが、それなら彼女がこの状態になっている現状は非常にマズいのではないか。


「ブラン子、あの技はまだ使えるのか」

「いえ、武装肉襦袢は全て射出しました。戦況は極めて不利といわざるを得ません」


 やっぱりマズかった!


 マシン子も本調子ではないし、ブラン子も幼体化している。

 数人の巫女見習いとマナティー親父を振り切って逃げるのは困難だ。


 もう少し作戦を練っていれば。

 もっと迅速に行動していれば。


 やっとマシン子を助け出せたのに、これじゃあ……。

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