3章7話 乱れ舞う
相手との間合いを摺足でジリジリ詰めるブラン子。
自信があるとはいえ相手は二人。
映画のように台本があって無双できるならともかく、そうではないのだから相手の出方を見るのは当然だ。
ゆっくりとにじみ寄り相手の動きを伺うブラン子に対し、フキン子とカバン子は彼女から目を逸らすことなく巫女装束の胸元から
芸妓型というからには芸事に秀でているのか、その動作は一糸乱れず同時に行われる。さしずめ芸者シスターズと呼ぶのが良いだろう。
苦無を取り出したはずみで衣装の胸元がやや開いた状態となっている。
しかしそこに目を奪われるわけにはいかない。
相手は武器持ち。一瞬の判断ミスが命取りになりかねないのだ。
仕掛けるタイミングを計るためか、ほんの一瞬お互い目配せをした芸者シスターズ。その隙きをブラン子は逃さなかった。
大きく跳躍し、くるりと身体を回して天井を蹴りつけると、その勢いを伴って右側のカバン子へと頭上から迫る。
カバン子は咄嗟のことで避けきれず両腕をクロスしてそれを防ぐも、力を流すことなく受け止めたせいで体勢を崩し、仰向けに倒れこんだ。
倒れた衝撃でぶるるんと波打つカバン子の弾力。
着地の衝撃でぶるるんと揺れるブラン子の弾力。
同時に起こった震度六ダブルぷるん夢の共演――いや、出来事に俺は改めて彼女達の身体能力が尋常ではないことを痛感した。
馬乗り状態のブラン子は間髪入れずカバン子に左手で突きを繰り出そうとしたが、フキン子の回し蹴りによって阻まれてしまう。それを見たカバン子はブリッジの要領で腰を曲げてブラン子を跳ね除け、右手を軸にして横回転。同時に苦無を投げつける。
跳ね除けられたブラン子は壁に激突するも、脚が床へ着いた瞬間にはその場を飛び退き、苦無の軌道からその身を外す。
戦闘型ではないらしいが、芸者シスターズの軽業じみた動きは厄介極まりない。
ブラン子が一撃必殺のパワーファイターだとしたら彼女達は小技を連発して敵を翻弄するカンフーファイターのようだ。
隊列を取り戻した芸者シスターズは胸元から次々と苦無を取り出し、容赦なくブラン子目掛けて投げつけた。彼女は何とか避けてはいるが、全てを避けきれるはずもなく、徐々にその巫女装束が血で染まる。
動きを目で追うのに精一杯だが、このまま俺が動かずにいるとやがてブラン子が倒れかねない。いくら再生能力があっても、それを上回る勢いで傷つけられればどうしようもない。
俺は後方から一気に飛び出し、距離の近いフキン子へと迫った。
「義経様、スライディングを」
「え? お、おう!」
攻撃方法を考えていたわけでもないので、ブラン子の指示に従いフキン子へとスライディング。しかしフキン子はそれを躱し、俺はそのままドア近くの壁に激突してしまう。何て格好悪いんだ俺。
「義経様、そのままの姿勢をお保ち下さい」
ブラン子はそういうと両手を袖に引き入れ、胸元から出し直す。
巫女衣装の上半身がはだけた状態でぷるんと――いや、両腕を水平に持って行き、その目に毒な――いや、その指先の爪を……伸ばした!
「形勢が不利と判断。手加減を終了します」
彼女はその場でスピンを始め、瞬く間にその回転はトップスピードへと達した。まるで竜巻のような形態となり、上半身から小さな塊を全方向に飛ばしまくる。
何を飛ばしているのかは解らないが、それを阻止しようと近付けば伸ばした爪の餌食になる事必至。正に攻防一体のロケットぷるん――いや、トルネード戦法だ。
俺と違って姿勢を低くしていなかった芸者シスターズはその塊の雨から逃れられなかった。彼女達に当たった塊はその身から離れず、シュゥッと嫌な音を立てて煙を上げる。
「きゃあああああ――」
「応援を――要請――」
ほんの数秒前までは不利だったブラン子が、簡単に形勢を逆転してしまった。
手加減せずに最初から……って、俺か!
俺が『手加減してやれ』といってしまったからか!
やがてゆっくりと回転を止めたブラン子は、小さな塊で肌を溶かされ戦意喪失気味の芸者シスターズを蹴り倒す。そして何事もなかったような足取りで俺の傍へと歩いてきた。
「義経様、今のうちに」
「ブラン子はどうするんだ?」
倒れていた俺に手を伸ばし、助け起こしてくれようとするブラン子。
「応援要請がなされたようです。指示を継続し後続部隊を『説得』します」
心なしかやり遂げた顔でそう告げる彼女の胸は平坦で、つい先程までそこにあったツイン・ビッグマウンテンが物の見事に消失していた。
壁や天井、芸者シスターズの身体にへばり付き煙を上げ続けている小さな塊はもしかしなくても……。欲望全開で触りに行かなくて良かった。
それはともかく、この絵は拙い。
見目麗しい青年(っぽくなったブラン子)に助け起こされる俺の図。
危険な腐の香りが充満する前に、距離を取らなくては。
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