3章3話 真真子①

「雉巫女神社って、日本で転移門のあった神社だよな」

「日本の雉巫女神社はここの出張所みたいなものよ。こっちが本家本元の雉巫女神社」


 三十分程自動塊に乗って到着したのは、神社特有の趣きを感じさせる石段の前。

 石段の先に覗く建物はブヨブヨした物で覆われておらず、馴染み深い日本の神社に近い。


「ブヨブヨしてないんだな」

「文化遺産的な建造物だから外装の変更ができないのよ。歴史が古いと何かと面倒よね」


 石段を登り鳥居をくぐると手入れの行き届いた広い前庭があり、その奥にやたらと格調高そうな本堂が見える。


 本堂の前には幾人もの女性が整列して頭を下げていて、まるで俺達が到着するのをしっていたかのようだ。


「あの人達も巫女なのか?」

「いいえ、彼女達は巫女見習いよ。巫女はあちらの世界とこちらの世界に一人づつ。その座が空席になった時、彼女達の中から新たな巫女が据えられるの」


 頭を下げていた巫女見習い達は、マシン子が近づくと『おかえりなさいませ』と言葉を発し顔を上げる。


 えっ……?


 ええっ!


 全員、マシン子じゃねーか!


 次々と顔を上げる巫女見習い達は全員同じ顔で、マシン子ドミノが倒れていく様子を見ているようだ。


「真真子、到着が遅れたようだね。何か不具合でもあったのかい?」


 本堂の扉が開き、中から黒くて小さな冠を着けた白装束の男性が現れた。

 小太りの体軀と相まってマナティーのような第一印象だ。


「はい、お父様。途中、ズルムケガラスから落下いたしました」


 あのマナティーはマシン子の親父さんか。


「それは難儀だったね。しかし無事でなによりだよ」

「ありがとうございます」


 むにっ。


 マシン子に近づいたマナティー、いや親父さんは自然体で彼女の胸を揉みしだく。 


 むにむにっ。


「……お父様、お戯れはお止し下さい」

「あっはっは。挨拶のつもりだったのだがね」


 そんな挨拶! ……素敵すぎる文化だなっ。


「櫻井くんだね。私がこの神社の神主、菊川字羅四朗きくかわあざらしろうだよ」


 マナティーじゃなくてアザラシなのか。


「ども」

「遠路はるばる御苦労だったね。さあさ、中へ入ってゆるりと休んでくれたまえ」


 むにっ。


「お父様!」

「昔は一緒にお風呂にも入ったのに。月日の流れは酷だねぇ、あっはっは」

「いやいや、胸を揉まれたらどんな女性だって恥ずかしいだろ」


「異な事を。コレは女性とか男性とか、そういう類の生物ではないのだけれど。いうなれば――」

「お父様っ! 義経は疲れているの。早くゆっくりさせてあげて」


「ほほう? なるほどねぇ。いやはや、この菊川字羅四朗としたことが思い至らなかったよ。櫻井くん、さあさこちらへ」


 何なんだ。全く理解が追いつかないぞ。

 異世界に転移した時から追いつかなかったが、そんなレベルじゃなく追い付かない。


「私は櫻井くんと話がある。舞乱子ぶらんこ、真真子を精密検査室へ」

「そのように」


 女性とか男性とかじゃないだって?


 マシン子ほど、容姿端麗で気さくで行動力があってチャーミングで相手を思いやれて自分をしっかり持っていて機転が利く『女性』はいないだろ?


 それを否定されたら、俺が今まで見てきた彼女は何だったというんだ。

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