2章18話 異世界の国

 武装した男達は槍を水平に構え、いつでも攻撃できるんだぞと威嚇の姿勢で待ち構えている。


 俺達がその攻撃範囲に入ると、槍を構えた男が前に出た。


「止まれ。身分証の提示を」


 マシン子はリュックをゴソゴソやって中から一枚のカードを取り出した。


「菊川真真子……、異界神主が使うバケモノか。そちらの青年は?」

「彼は櫻井義経。異界の民であり私達の協力者よ。教皇庁に連絡は行っているはずだけど」


 バケモノ?


「なぜ陸地を歩いてきた? 教皇庁の人間なら空から入れるだろう?」

「ズルムケガラスから落ちたのよ。それで仕方なく歩いてきたの」


「空から落ちた? それで生きているのか、信じられん……」

「貴方が信じようと信じまいとそれが真実よ。時間の無駄だから早く教皇庁に照会して頂戴」


「……いいだろう。暫く待て」


 門兵の態度は可もなく不可もない。

 俺達が外部からの来訪者だということを考えれば、むしろ優しい方だと思う。


 それに対してマシン子の口調はどこか強気で、早く会話を終わらせようとしている風に見える。まるで門兵の口から不都合な言葉が出る前に終わらせようとしているような。


 それにしても、いつの間に俺のことを報告したんだ?


 こちらの世界にくる前か?

 それともこちらにきてからか?


 そんなことができるのか?


 通信機なんてマシン子は持っていないはずだ。

 持っていたら墜落したことをしらせて助けを呼べたはずだしな。


 それに門兵がいったバケモノって単語。


 彼は確かにマシン子を指してそういった。

 あれはどういう意味なんだ?


「菊川真真子、櫻井義経。お前達の照会が完了した。通って良いぞ」

「ありがとう。さ、行きましょ義経」

「お、おう」


 開け放たれた門から俺達は壁の内部へ入る。

 外から見てあれだけ大きな壁だっただけあって、内部通路はかなりの長さで天井も高い。


 マシン子は一言も発せず、ただ黙って俺の前を歩いている。

 コツン、コツンと足音が内壁に反響し、その音が心を不安にさせた。

 こんな時こそ軽口が聞きたいっていうのに、さっきから変だぞマシン子。


 やがて出口付近に到着すると外側からゆっくり門が開き、薄暗さに慣れた目を眩しい光が覆う。同時に音が、人の喧騒が徐々に大きくなってきた。


「義経、ここが貴方に提供できる採取場所、日元教国よ」


 眼前の景色は俺がかつて見たどんな物とも違う独特な雰囲気を醸し出し、建物、乗り物、人の格好、それら全てが俺の常識から外れていた。


「異世界……、ハハハ。これはまさしく異世界だ」


 目の前に広がる現実を見て俺ができたのは強がって笑うことだけで、マシン子のことも、仕事のことも、これからのことも、何も考える余裕なんてなかった。






 ~ 二章 了 ~


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る