2章17話 壁
魔物に襲われる事件もあったが、それを除けば俺達の旅は順調に進んだ。
洞窟の出口に辿り着いたのは出発してから二日目。
洞窟の出口も入口と同じく狭い通路だったが、壁の表面がスベスベしていたのでマシン子も何とか通り抜けることができた。
「妾が案内できるのはここまでじゃ。義経、マシン子、いつかまた会おうぞ」
「メグさん、本当にありがとう。絶対また会いに行くからな!」
「幾ら感謝しても足りないわ。メグさん、良かったらこれ貰ってくれる?」
マシン子はリュックをゴソゴソとかき回し、中から綺麗な鉱石で作った腕輪を取り出した。
「随分と綺麗な飾り物じゃな。妾が貰ってもよいのかえ?」
「ええ、是非貰って欲しいの。これは義経が採取した鉱石で作った腕輪よ。メグさんならきっと似合うわ」
『美しい物は美しい者にこそ相応しい。こやつ、解っておるではないか。姿は家畜じゃが心はとても透き通っておる。マシン子、辛くとも頑張って生きるのじゃぞ』
メグさん、もうホントに勘弁してあげて。
「遠慮なくいただこう。では二人共、達者でな」
そういうとメグさんは、洞窟の割れ目に身を滑らし消え去ってしまった。
何だか呆気なかったが、これが今生の別れというわけでもない。
「へえ~、こんな場所に出るのね」
「ここがどこか解るのか?」
「解るも何も、ほら」
マシン子が指した方向を見やると森があり、梢のその先には白くて長い壁がある。
「でかい壁だな、万里の長城みたいだ。あれが日元教国?」
「そこまで長くはないけどね。日元教国の領土は全てあの壁で囲まれているの」
「領土ってどれくらいあるんだ?」
「東京ドーム三十九万個分よ」
「東京ドームネタはやめて、解り易く教えてくれ」
「四国と同じくらいの面積ね。因みに周囲の距離は約千二百キロだから壁の長さもそのくらいあるわ」
よくもまあ、そんなに壁を繋げたものだ。
一体この国の人間は何に怯えているんだ?
それとも他種族に隠したい何かがあるのか?
「じゃあ、そろそろ行くか。壁は目の前だしな」
「そう見えるけど、辿り着くのに半日はかかるわよ」
半日歩いて到着する距離の建造物が見えているのか。
予想以上にデカい壁なんだな。
「何にせよ目の前なんだ、行こうぜ。俺も早く仕事をしないと干上がりそうだしな」
「そうなったら私が面倒見てあげましょうか?」
「ゴメンだね。タダより高いものはないっていうしな。後で何をやらされるのか考えたくもない」
「アハハ。乗ってこなかったか~」
洞窟から出た先の森を抜けると、膝まで水位のある川に突き当たった。
俺が倒れていた川の上流に当たるそうで、この川沿いに歩いてきたら山一つ迂回しなければならない距離だったらしい。メグさん、本当にありがとう!
川を渡った先には草原が広がり、この辺りから日元教国を囲む壁のデカさをひしひしと実感できた。
「とんでもない高さだな。
「もっと高いわよ。三百メートル程あるから東京タワー並ね」
「それが千二百キロも続いてるのか。一体何の対策なんだ?」
「魔物対策もあるけど、日元教の教皇様や枢機卿達は人間至上主義でね。他種族の侵入を酷く嫌っているの」
「何だか堅苦しそうな国だな。日本と大違いだ」
「そうね。でも人間至上主義なのは上層部の人だけ。国民の多くは他種族を嫌っていないわ。むしろ、こっそり取引きしてる人も多いみたいだし」
他種族を嫌っていると聞けば悪いイメージが先行しがちだが、長い歴史の中で生まれた理由もあるのだろう。考え方は国や人それぞれなのだから一概に間違いだと決めることはできない。
「義経、色々考えたいのは解るけど後にして頂戴。お待ちかねの門兵イベントよ」
「そんなイベント待ってねえよ。身体検査とかあるのか?」
「う~ん。ズルムケガラスで空から入れば良かったのだけど。私も歩いて入るのは始めてだから、どうなるのか予想できないわ」
巨大な壁の門らしき場所から、幾人かの武装した人間が出てくるのが見える。
西洋的な鎧兜に槍を携え、俺達の到着を待ち構えているようだ。
オーバーテクノロジーがあるので武装は防弾ベストや銃器だと思っていたが槍なのか。以前にも感じたが何かチグハグな印象なんだよなぁ、この世界。
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