2章15話 捕食者
牛蛇への騎乗は騎士道にも似た心構えが必要だった。
頭の
それだけだとバランスが悪いので膝から下で牛蛇の身体をカニバサミ。
そこまでしてやっと安定した騎乗が可能になる。
元々騎乗用の生物ではないから乗り心地に関しては文句をいえない。
いえないが。
俺も血気盛んな年頃だし、思ってしまうんだ。
柔らかいな、と。
違うことを考えなければと思い、脳裏に浮かんだのは森での出来事だった。
上半身ほぼ裸で大樹から吊るされ、右の胸が揺れたら左の胸も揺らしなさいとばかりにリズミカルな動きを見せる双丘。
その揺れはいつしか大気を振動させる波紋となり、俺の身体にコラテラル・ダメージを与えながら世界全体へと広がって――。
それはともかく。
俺達は今、牛蛇に騎乗して湖を渡っている。
南側の入り口から北側の出口へと山の内部を一直線。
川沿いを迂回する陸路に比べ、大幅な時間短縮になることは間違いないだろう。
身体はどうしても濡れてしまうが、湖全体が温めの温泉なので嫌な感じはしない。
ただ難点もあって、洞窟内部には太陽がないので時間の経過が解り辛い。
「そろそろ一日くらい経ったと思う?」
「感覚的には半日ってところかな」
「うむ。義経が正解じゃ」
メグさんを先頭に俺とマシン子が少し遅れて並び、その周囲を残りの牛蛇達が護衛するように泳いでいる。
幻想的だが単調な景色に加え、その統率された動きがマシン子の感覚を狂わせたのかもしれない。俺は触れてはいけないものに触れているんじゃないかという罪悪感からくる、一定のリズムで刻まれる心音で時間の感覚もバッチリだけどな。
「単調な風景に惑わされず気を張り続けねば足元を掬われかねんぞ」
「でもここはあまりしられていない場所なのでしょう?」
「この洞窟に住みついておる魔物や、フラフラ迷い込んでくる者もおるでの」
「そ、そうよね。これだけ広い洞窟だものね。その危険性を考えるべきだったわ」
今まで何も危険がなかったので、俺もその可能性を失念していた。
しかもここは異世界。何があっても不思議じゃない。
「うむ。それに妾も肉の器に縛られた身。食するために獲物をここへ誘き寄せることもあるでのう」
頬まで裂けた口から鋭い牙を覗かせて、メグさんはゆっくりとこちらへ振り返った。それは先程までの優しい彼女からは想像もつかない捕食者の顔だった。
「メグさん、何を」
「ちょっと、ええっ」
「すまんな、許せよ……」
それは本当に一瞬の出来事で、俺はメグさんの突き出した槍の軌道に少しも反応することができなかった。
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