2章9話 アップデート
ひょい。パシッ! コロコロ……
「シャアァァッ!」
ひょい。パシッ! コロコロ……
「シャアァァッ!」
「駄目みたい」
「メグさんに何か嫌われることしたんじゃないのか?」
「何もしてないわよ。話しかけたのも今日が始めてだし」
「相性的なものか」
先程からメグさんに翻訳機を取り付けようとしているマシン子だが、手を近づけるたびに翻訳機を叩き落とされてしまう。
「野生の勘で危険を感じてるのかもな。その機械、装着する時は痛いのか?」
「最初に一瞬だけ痛みを感じるけれど、針で指先を軽く刺した程度よ。その後は前頭葉の運動性言語中枢まで機器内部から人工神経が伸びるだけだから痛みはないの」
人工神経とかオーバーテクノロジーじゃないか。
もっとお手軽な秘密道具的な物を想像していたのに。
「というかだ。マシン子は翻訳機を通してメグさんの言葉も解るんじゃないのか?」
「そこまで万能じゃないわ。特に網羅されていない言語や語句には反応しないのよ。元々の機能やアップデートに偏りがあるから、義経のいってることも解らない時があるし」
翻訳機って万能感のある響きだから、どんな言葉でも解るのかと考えていたがそうではないらしい。網羅されていないと駄目なのか。
待てよ?
もしかしてマシン子がジャッキーネタをスルーしていたのは……!
まさかな。ジャッキーを網羅できていない翻訳機なんて翻訳機としてあり得ない。
あの有名な酔拳や笑拳を網羅していないなんて、それはもうこの翻訳機は欠陥商品ですよといっているようなものだ。
「なあ、マシン子。これ解る? ジャッキーの酔拳は最強!」
「アンノウンのアンノウンは最強? 上手く翻訳できないわね」
あり得たっ!
翻訳機、まさかの死角がジャッキー関連だった!
俺を無視していた訳じゃないから喜ぶべきだが、ジャッキーについて詳しく教える必要性をひしひしと感じる。ううむ、何から教えようか――って、今大事なのは、メグさんに翻訳機を装着できるか否かだった。
「話を戻すが、それならメグさんに装着しても意味ないんじゃないのか?」
「それは違うわ。メグさんに翻訳機を装着することによって翻訳機がメグさんの言語を理解するのよ」
「ふむふむ」
「そうすれば自動アップデートされて、水妖語が私達の使用言語として聞こえるはずなのよ。要するに翻訳機から出る音波で脳を誤魔化す感じね」
「なるほどな」
さっぱり解らん。
「メグさんは、その機械を警戒しているのかもしれない。先に俺が装着しても良いか?」
「そうね。じゃあ義経、頭の左側をこっちに向けて」
翻訳機を持ったマシン子の右手が左耳に近づく。
左手で俺の顎を固定しながらゆっくりと耳の後ろへ手が伸びて物凄く顔が近くて吐息も頬にかかったりして良い匂いだし柔らかいなマシン子の手は――って駄目だ、理性が飛びそうになる。
「痛っ!」
「シャアッ!」
「痛いのは最初だけよ。すぐに良くなるわ」
針でチョンと突かれたような僅かな刺激を感じた。
「どう? ゆっくり義経の中で伸びてるのが解る?」
耳の後ろからゆっくりと何かが頭の中に侵入してくるのが解る。
それにしても言い方。
「終りか?」
「シャア?」
「うん、これで終り。十秒もすれば完全に接続されるわ」
ちょっと緊張したが以外と呆気なかった。
着けている感覚もほとんどない。
これならメグさんにも安心して装着してもらえる。
――接続が完了しました。アップデートを開始します――
「何か聞こえた!」
「シャアアッ!」
「翻訳機が正常に接続された合図よ」
一体どこから聞こえてきたのだろう。
マシン子のいっていた誤魔化す音波ってヤツか?
ともあれ正常に接続されたようで良かった。
「じゃあ俺がメグさんに装着してみるよ」
マシン子から翻訳機を受け取り、まだ少し痛む身体を起こしてメグさんに近づく。俺がゆっくり頭に触っても、彼女は嫌がる事なくジッとしている。
やはり相性的なものみたいだ。
そしてあっさり、魚のヒレっぽい耳の後ろに翻訳機を装着することができた。
「シ、シヤァッ」
「大丈夫だメグさん。もう痛くないぞ」
「これでメグさんとお話ができるかもしれないわね」
――接続が完了しました。アップデートを開始します――
「おおっ!」
「やったわ!」
メグさんにも翻訳機が正常に接続された。
これでお礼がいえる。
「メグさん、聞こえますか? 私の言葉が解りますか?」
「ち……」
「え、何?」
「近寄るでない、家畜娘!」
やはりマシン子には厳しいメグさんの、第一声がそれだった。
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