2章8話 翻訳機

 耳の後ろ側、耳輪みみわで丁度隠れる辺りに平たいカフスボタンのような物が貼り付けられている。その表面は目まぐるしく色彩を変化させていて、ミュージックイコライザーのよう。


「これが翻訳機よ。これがないと私も義経の言葉は半分くらいしか解らないわ」

「へー便利な物が、って違う! お前、外国人だったのか!」


「まさか。日元産まれの日元育ちよ?」

「ホッとした、ってそれも違う! お前、異世界人だったのか!」


 ここで明かされる驚愕の事実……でもないか。

 『日元の巫女』って聞いた時から何となくそうかもな、とは思っていたんだ。


「宗教国家、日元教国が私の故郷。代々異世界に通じる門を護る『異界神主』の家系に産まれた慎ましやかな女の子よ」


 ここぞとばかりに新しい言葉を使ってきたな。

 つまり日元という国は宗教国家。そして現代の日本と異世界の日元を結ぶ門を護るのがマシン子一族の役目、とこんな感じか。


「慎ましやかは置いておいて、そうか。なるほどな」

「あれ? 重大告白のつもりだったのに意外と驚かないのね」


「驚いたら何かくれるのか?」

「日元までの旅行チケットなんてどうかしら。もちろんペアで」


「往復で頼む」

「義経って意外と欲張りね」


「まあな。それは良いとして、この際だから気になってたことを教えてくれ。こちらとあちらの大陸の形は同じなんだよな?」

「そうよ」


「だったら練馬辺りじゃなくて、今いるここも日元じゃないのか?」

「違うわね。大陸の形が同じなだけで、地形も少し違うし生態系も違うの」


「それは解ってる。ズルムケガラスやメグさんに会ったからな」

「日元教国はこの『日出ずる島』にある一つの国にすぎないわ。ちなみにここは、メグさんがいるのを踏まえると水妖や土妖の支配地域。日本に置き換えると杉並の美山自然林辺りと考えられるわね。国ではないけれど人間が勝手に侵すことができない場所よ」


「もし侵したらどうなる?」

「どうなるのかしらね。やってみる?」

「シャァッ?」


 メグさんみたいな不思議生物達とやり合っても勝てる気がしない。

 それに俺が異世界へきたのは戦うためじゃなくて石を採取するためだ。


 初志貫徹。初心忘るべからず。


「遠慮しとく。で、翻訳機の話だ。その翻訳機を外したらマシン子が俺と喋れなくなるんじゃないのか?」

「そうだけど、そこは問題ないわ」


 そういってマシン子はリュックをゴソゴソやり始めた。


「じゃ~ん! 翻訳機~」


 彼女は得意気に両手を差し出した。

 左右の掌には一つづつ、先程見た翻訳機が乗っている。


「自分用。スペア。そしてスペアが無くなった時のスペアよ」

「だからスレスレはやめろって!」

「シャァッ!」


 これをメグさんに付けてもらえば、会話できるかもしれないのか。

 何だか異世界って凄いな。


 てっきり中世ヨーロッパ並の文化レベルだと思ってたのに、携帯ハングライダーに翻訳機ときた。これはもしかしたら、現代日本より進んでるかもしれないな。

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