2章7話 メグさん

「はい義経。あーんして」

「あ、あーん」


「はい義経。体拭くね」

「お、おう」


「はい秀吉。服を洗ってきたわ」

「ありがとう。秀吉じゃないけどありがとう」


「いつもすまないねぇ。こんな時にコンビニさえあればなぁ」

「それはいわない約束でしょ~」


 マシン子を助けてから今日で四日目。

 俺達は何をしているのかというと、実はまだ大樹の根元にいたりする。


 締まらない話だが、打撲・裂傷・捻挫・内出血は、負傷した当日より翌日以降が辛いのだ。当日は何とか気力で動けたが、寝て起きたら激痛でほぼ動けなくなってしまった。


 同じように突っ込んで同じように負傷していたはずのマシン子は、一晩寝ただけで動けるようになって傷も治っている。


『だって義経は抱えられてたけれど私はハングライダーに固定されてたでしょ? それにハングライダーが大部分の衝撃を肩代わりしてくれたし』と彼女はいうが、果たして本当にそうなのか。

 

 抱えられていた関係で下にいたから、俺は余計な傷を負ってしまったのか。

 それとも森に突っ込んだ時の位置的な問題なのか。

 もしくは運の問題なのか。


 なぜ上着が大きく破れていたのに、彼女のぷるんは無傷なのか。

 無傷であれと思う俺の心が奇跡を生んだのか。

 ……色々と解せぬ。


 そんな事情で俺が動けるようになるまでは出発を延期することになった。


 弱っているマシン子のサポートをしながら格好良く進んで行くつもりだったのに、俺のほうがサポートされるとは。世の中本当に上手くできている。


 上手くできているといえば食べ物もそうだ。

 俺もマシン子もサバイバル経験なんてなかったから、食料をどうすれば良いのか解らなかった。


 木の実や草が食べられるんじゃないかと思ってはみたが、ここは地球ではなく異世界。食べられそうな木の実も草もあるにはあるが、毒があったらどうしようと考えて手を出せずにいた。


「シャアァッ」


 どさり、と俺の寝ている横に川魚が投げ置かれた。


「メグさん、いつもすまないねぇ」

「シャッ」


 半魚人のメグたん改めメグさんだ。


 彼女(女性だと思う)はマシン子が食料を探しに出かけている時に、どこからともなくやってきた。動くこともできずに死を覚悟していると、俺の傍に魚を放り投げて姿を消してしまった。


 暫くして探索から帰ってきたマシン子は、魚を見て不思議顔。

 斯々然々かくかくしかじかだよと教えたところ『水妖すいよう(半魚人ではないらしい)は水辺のグルメリーダーよ。水妖が持ってきてくれた魚なら安心ね』と、ニコニコしていた。


 彼女はあの顔でグルメなのか。いや、顔は関係ないな。


 マシン子のリュックは幸い無事で、十徳ナイフと折りたたみ式小型鉄板が入っていた。そのおかげで俺達は太陽光で熱した鉄板の上に捌いた魚を乗せ、焼き魚として食べる事ができたのだ。お腹が痛くなることもなかったし、毒の症状も出なかったので水妖には本当に感謝だ。


 お世話になったのだからもう軽々しく渾名では呼べないと思った俺は、彼女の呼び名をメグたんからメグさんに変更した。


 次の日もその次の日も、メグさんは何処からともなくやってきては魚を放り投げてくれた。俺がお礼の言葉をいうと『シャアッ』とか『シャッ』と答えてくれ、三度目の今日ともなると何となく『気にするな』といっているのだろうなと解るようになった。


「メグさん、ありがとう。私も嬉しいわ」

「シャアァァァァァッ!」


 メグさんはなぜかマシン子には厳しく、彼女が喋りかけると明らかな威嚇の声を出す。女性として何か感じるものがあるのかもしれない。


「メグさんは、私のことが嫌いなのかな?」

「態度から察するに好きではなさそうだな。何をいってるのか解れば違うかもしれないが」


「ナイスアイデアだわ、義経! メグさんに翻訳機を付けましょう」

「その『イルカに発信機を付けよう』的なノリはどうかと思うぞ。それに翻訳機なんて持ってないだろ?」


「それが持ってるのよね。ほら見て」


 そう言って彼女は右サイドの髪を掻き上げ耳の後ろ側を見せてくる。

 透き通るように白くて、ほんのり桃色がかったとても綺麗な耳でした、まる。


 ――いや、そうじゃない。


 そこには見たこともない小さな機械が動いていたのだ。

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