2章6話 襲わないでね

「今現在、俺達はどこにいるのか。それが問題だ」

「見た?」


「ズルムケ壱号で日元への直線距離を飛んでいたのだから、方角さえ分かれば歩いて行くことも可能だと思う」

「見たよね?」


「ただ俺達は物資の大半を失い、肉体的にもダメージを受けている状態だ」

「ねぇ、見たんでしょ?」


「まずは傷を癒やしつつ食料を確保するのが先決だと思う」

「何色だった?」


「ピンクかな」

「やっぱり見たんじゃない!」


 ポカポカと力なく叩いてくるマシン子のパンチは、しかし内出血だらけの俺にはかなりのダメージになるわけで。


「痛いって! 仕方ないだろ。木から降ろすのも寝かせるのも目を閉じてなんてできないんだからな!」

「それは凄く感謝してるけど――」


「けどもヘチマもねえよ。ハングライダーのベルトが食い込んでたから、あのままだと鬱血して死んでたかもしれないんだぞ」

「そ、そうよね。うん、ごめんなさい。私、少し感情的になってたわ」


「解ってくれれば良いんだ」

「この弱った身体じゃ一人でトイレもできないし水浴びもできないんだから、恥ずかしがってちゃ駄目よね」


「え?」

「もうある意味、隅々まで全てさらけ出すくらいじゃないと駄目よね」


「え、それはさすがに……」

「良いの、解ってる。私の裸になんて何の価値もないことくらい」


「いや、無理だからな! トイレとか水浴びとか絶対無理だからなっ!」

「え~っ。じゃあ弱って身動きもままならない不憫な私は一体どうしたら良いのよ~」


 確かに心ゆくまでたわわに実った果実を見続けてしまったが、俺だって見たくて見たわけじゃ……いや、見たくて見たんだけど……あーもう面倒臭い!


「悪かったよ、ごめん!」

「アハハ。ちょっとからかってみただけよ。本当は気にしてないし寧ろ感謝してるわ」


 なんだよそれ。

 こっちはラッキースケベだったとしても罪悪感はあったのに。


「取り敢えず現在位置を割り出す必要があるわね」

「そうだな。アテはあるのか?」


「砂漠の鳥居があった場所は、向こうの世界で神社の中庭があった場所とほぼ同じなの」

「そうなのか」


「ええ。そこから北西、つまり向こうの世界で言う練馬方面へ飛んでいたから」

「渋谷から阿佐ヶ谷までのどこか……か?」


「そうなるわね。ちなみに行こうとしていた日元教国は向こうの世界でいうと練馬辺りからがその領土になるわ」


 つまり搭乗時間と速度から逆算して最低でも向こうの世界でいう渋谷辺りまでは飛んでいて、もしかしたら阿佐ヶ谷まで行けているかもしれない、と。

 それなら方角さえ解れば何とか歩いて行けそうだ。


「それにしても義経、地理感バッチリじゃない?」

「フッ。田舎者はな、東京のマップを舐めるように見て暗記する時期が必ずあるのさ」

(※個人の感想です)


「とにかく今日はこの巨木の根元で過ごすしかないな。太陽が沈む位置さえ見極められれば、明日から行動できる」

「意外と頼もしいのね」


「当たり前さ、沈む太陽を背に蛇鶴八拳の型をやり続けた男だからな」

「じゃあ、正直身体を動かすのも辛いからもう横になるわ。襲わないでね」


 ジャッキーネタはあくまでもスルーか。


「それは契約にはない事項だけどな。俺もこんなだし、今夜だけは見逃してやるよ」


「アハハ、格好つけちゃって。おやすみ義経」

「ああ。おやすみマシン子」


 俺も西日を確認したら、すぐに眠るとしよう

 身体中が悲鳴を上げすぎて全身ムンクの叫び状態だからな。


 でも隣りにいるマシン子を意識せずに眠れるかと問われれば……

 眠れないだろうなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る