2章4話 水際の駆け引き
流水に顔を撫でられる感覚。
意識が覚醒するにつれ、水の匂いと魚臭さが鼻につく。
身体中が焼けるように痛み、頭の中がグルグルと回転し始める。
状態は思わしくなさそうだが、どうやら俺は生きてるらしい。
ゆっくりと瞼を開けてみる。
川の浅瀬らしき場所に浸かっているらしく、傷口から染み出した血が水を薄い紅色に染めていた。
「痛っ」
右手を軸にして起き上がろうとしたが、容赦ない痛みが全身を襲う。
この感じはヒビが入っているか、もしかしたら骨折しているのかもしれない。
何かが背中をツンツンしている。
もし熊や狼が、俺の生死を確かめているのだとしたら最悪だ。
ここは異世界。
地球とは生態系が違うので、未知の大型生物という可能性もある。
そうだとしたら、今の状態では助からない。
負傷していなくとも、そんなモンスターに遭遇して助かるとは思えないが。
ままよとばかり、俺は痛みをこらえて反対側に転がった。
「あ゛!」
「シャ!」
そいつと目があった時、思わず変な声が漏れてしまった。
「うわわわっ!」
「シャアァァァッ!」
身体中が痛いのも忘れてその場から飛び退き、浅瀬にペタンと尻餅をつく。
それ程ビックリする光景が、いや人物が目の前にいたのだ。
「野生に戻ったのか、メグたん!」
「キシャァァァァァッ!」
大声を出した俺にメグたんも驚いたようで、身軽な動作で後ろへ飛び退いた。
まてよ?
ここは異世界だし、メグたんがいるのは日本のはずだ。
ならば今、目の前にいるこのメグたんは……。
真っ赤に充血した目を極限まで広げ、頬まで裂けた口から覗くのは鋭い牙。
全身青みがかった鱗で覆われ、下半身は人間のそれだが上半身と頭部は人間と魚が入り混じった奇怪な姿。
右手には鈍く尖った鉾を持っていて、腰には素材が何なのか判別できない布を巻いている。解り易くいえば一般的な
限りなくメグたんに近い何かではあるが、メグたんでは断じてない。
「ま、まて。俺に戦意は無い!」
「シャアァッ」
「ほら解るだろ? 怪我人なんだ。それにお前と戦うなんてとんでもない。何となく友人に悪いからな!」
「シャシャ?」
おれは両手を広げて戦意のないことをアピールしたが、多分通じていない。
野外で危険生物に遭遇した時、どうすれば良かったか。
なけなしの知識を求めて頭を搾る。
メグ――半魚人は道具を持っているので知能は低くないはず。
地球の動物に置き換えるなら一体何だ?
サメは違う。イルカも微妙。水中生物から離れてライオンも違う。
猿は?
そうだ、猿だ!
目の前のコイツを猿だと思え。
猿に敵意のないことを示す方法は、歯を見せてニッコリ笑うだったか?
それとも両手を挙げてバンザイだったか?
迷っている余裕はない。
今こんな化物に襲いかかられたら、ひとたまりもない。
俺は半魚人に向かって歯を見せニッコリ笑いかけ、同時にバンザイしてみた。
「シュゥシャ?」
半魚人は何か考えているそぶりを見せた。
敵意はないんだ、俺は敵じゃない。
寧ろ友達だ。お前の彼氏の友達なんだ!
頼む、伝わってくれ!
「シャシャ、グゥ」
半魚人はゆっくりと近づいてきてクンクンと匂いを嗅いだ後、川底へ消えていった。
「ふぅ」
この世界にきてから死ぬような思いばかりだな。
マシン子にこの世界のことを詳しく聞かなければ、この先どうしようもない。
そうだ、マシン子はどこに行った?
痛む首をゆっくりと回して周囲を隈無く見渡してみたが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。墜落途中で意識を失った俺は、彼女から手を離してしまったようだ。
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