1章10話 異世界なのよね
混雑している店なので仕方ないとは思う。
でも注文してから二十分以上、音沙汰がないのはいかがなものか。
おかげで彼女の話は終わり、俺はストローの包装紙で作ったゲジゲジに水を垂らして伸ばす遊びをしながら間を繋いでいる。
彼女の提案は突飛もない物で、普通に考えると関わっちゃいけない
でも目の前で微笑むマシン子を見ていると、一回くらい妄想に付き合ってやっても良いかな、という気分にもなる。
その提案がこうだ。
「で、違法になるから石の採取をやめるってわけ?」
「ああ。もし捕まったら親が悲しむからな」
「理解したわ。でも勿体無いわね、義経レベルで鉱石採取のできる人なんて、今まで見たことがないもの」
「そうなのか? あんなの誰だってできるだろ」
「水晶ならともかくアグニタイトやヘマタイトを短時間であんなに、しかも『日本の』川で採取できる人なんて聞いたこともないわ。義経はきっと特別な採取能力を持っているのよ」
特別って言葉は良い響きだな。
男子に産まれたからには一度は考えるものだ。
自分の中には特別な力が眠っていて――みたいな。
「フフフ、隠そうとしても隠しきれなかったか。俺から漏れ出す特別なパワーは日ごとに大きくなっているからな」
「もう。茶化さずにちゃんと聞いてよ!」
「ごめんごめん。でも仮にそんな能力があったとしても違法に採取する気にはなれないな」
「じゃあ、違法にならない場所があれば続ける気はあるの?」
「そりゃ続けたいさ。自分のペースでできる仕事なんてそうはないからな。マシン子だってそうだろ?」
「まあね。私も自分のペースを崩されるのが嫌だから今の仕事をしてるわけだし」
マシン子は都内に小さなアクセサリー工房を持っているらしい。
俺と変わらない歳で独立しているなんて本当に凄いと思う。
「……よし!」ぷるん。
ドンとテーブルに手をつき中腰になり、俺の方へと顔を近づけるマシン子。
今、ぷるんって揺れたぞ。何がとはいわないが、ぷるんって。
今日のお前は可愛さ五割増しなんだから、アクションには細心の注意を払ってくれ。
「義経、私と一緒に仕事しない? どう考えても、あなたの能力を埋もれさせておくのは惜しいわ。違法にならない採取場所も提供できるわよ?」
私と一緒にだと?
それはつまりマシン子のパートナーになるって事か?
容姿端麗で性格も良くて、ぷるんって揺れてる警戒心ゼロの――いや、ぷるんは関係ないな。
とにかく俺とマシン子が一緒に仕事をするって話か。
断る理由を見つけるほうが大変な提案だ。
「ただしね、ここだけの話なんだけど……。誰にもいわない?」
「口の堅さはジャッキーの大胸筋並だぜ」
「ちょっと耳貸して」
「お、おう」
ジャッキーネタはスルーか。
それにしても距離近っ!
肌の
全力で息を吸い込みたくなる気持ちを抑える俺。
「実はね、義経に教える採取場所って」
耳がこそばゆい。
それに何だか、そこはかとなく良い香りが。
「異世界なのよね」
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